第16回ICAクアラルンプール大会に参加して
遠藤 茂
1.はじめに
平成20年7月20日から26日の7日間、マレーシアクアラルンプールで開催された第16回国際公文書館会議(ICA)クアラルンプール大会に国立公文書館の依頼により日本のセッションの発表者として参加してきた。
この会議は、各国公文書館の相互連携を確立し、その発展に貢献することを目的としてユネスコの支援を得て昭和23年に発足した国際非政府機関である。本部はパリに置かれており、180を越える国や地域の公文書館、専門職団体、専門職教育機関などが加盟している。
ICAは4年に一度、世界の公文書館が一堂に会する大規模な国際公文書館大会を開催していて、今回は16回目の開催として、マレーシアのクアラルンプールで開催された。
日本の国立公文書館は、昭和47年にICAに加盟し、以後ICA関係の国際会議などに積極的に参加し、各国の公文書館やアーキビストとの交流を深めるとともに、国際的な公文書館活動への貢献に努めている。
2 発表したセッションの内容について
私は、発表者として参加した国立公文書館主催のセッションの「日本におけるアーカイブズの発展」というテーマのセッションで、『「神奈川県立公文書館における公文書等の収集から閲覧までのシステム管理について」~その現状と方向性について~』の内容で、発表を行った。
発表は日本語でも可能ということなので一安心したが、同時通訳の方が英語に訳すので、通常の説明よりゆっくり話すように言われ、話原稿を何回も見直し縮小して作り上げた。実際、本番では、緊張していたが、時間内に収めて、発表することができた。
内容は、公文書等の書庫への収蔵キャパシティの限界というテーマをきっかけに、その解決策として、過去の公文書等の選別実績の分析、課題の抽出、解決策、今後の方向性についてデータを示しながら20分の持ち時間内で発表を行った。
事前に、会場に話す全体の趣旨、説明するデータの表について日本語と英語で作成した資料を配布してあったので、神奈川県立公文書館の公文書保存業務の内容、私の言わんとすることは伝わったのではないかと感じている。
私にとっては、今回の国際会議におけるセッションでの発表は貴重な体験となった。
また、他の報告としては、「日本における大学院アーカイブズ学教育の開始とその課題」について、と題して、学習院大学文学部教授 保坂裕興教授から発表があった。
内容はアーカイブズに関わる教育課程の必要性から、2008年度から日本で最初に大学院レベルのアーカイブズ学教育課程が、学習院大学に開設されたことに伴い、その概要について、講義や実習による教育の実際的な課題、また、修了生が羽ばたいていく日本社会において、法制度が未整理であり、専門職の資格制度が不在である課題、また、多様な職業開発が必要であると言う課題などについて報告を行った。
この件に関しては、神奈川県立公文書館において、学習院大学大学院アーカイブズ学専攻実習プログラムとして、実習生を3名受け入れて、公文書の保存業務について実習を行っていることから、アーカイブズ学の教育課程に協力していることになる。
その他、「歴史とアーカイブズ」のテーマで、アジア歴史資料センター長の石井米雄氏から報告があり、アジア歴史資料センターの開設の際、開設が遅れた行政内部の問題点や、文化的背景から汲み取ることができる教訓について発表した。特に、センター開設の関係者が直面した論争となっている歴史問題への共通認識を得ることの困難さを紹介した。さらに外交官としての実体験を踏まえてなぜ多くの役人が記録を残すことに関心が薄いかについて説明があった。
また、『「外務省外交資料館の所蔵資料と活動」~外交資料の総合的情報センターをめざして~』のテーマで、外務省外交資料館課長補佐 内藤和寿氏から報告があった。外交資料館の保存活動として戦前・戦後の外務省記録を中心とする外交資料の保存・公開をベースとした閲覧・レファレンスを行い、アジア歴史資料センターや外務省ホームページを通じた電子画像資料の提供等、「外交資料の総合的情報センター」を目指すことを報告した。
まとめの段階で、モデレーターの神奈川大学法学部教授後藤 仁氏から公文書のライフサイクルを管理する日本の国の法制度が実現しそうであることを発表していた。また、ICAの大会を日本で開催したい意向はあるが、現状のスタッフでは難しい現実を述べた。
3 その他参加したセッションの内容について
「電子政府化の進展と電子記録管理」というテーマのセッションに参加した。
内容については、中国、韓国、日本の代表が自国政府の電子化の現状についてそれぞれ報告をした後、各国の課題等について意見交換を行った。
韓国からの発表は、韓国政府の文書作成、管理、保存の過程における電子化が9割進んでいるという報告には驚きを感じた。
日本の現状発表からは、日本の電子化はまだ、電子文書の長期保存の問題、電子文書の原本性確保の問題等が検討の段階で、他の発表国と比べると電子化の遅れを感じざるを得なかった。
しかし、新しい文書管理の在り方についての有識者会議で、中間報告が出され、作成から利用までのライフサイクルを通じた公文書管理法制を確立し、公文書管理体制を充実強化する方向性が決まりそうであると報告し、新たな局面にあることを認識した。
次に「危機とアーカイブズ」というテーマのセッションに参加した。その内容については、資料の散逸の危機への対応事例として、一番目に、東京大学経済学部教授伊藤正直氏から、破綻した山一證券の内部資料を東京大学図書館がいかにして引取り、整理、管理したかについて、二番目に、慶応義塾大学経済学部教授杉山伸也氏から衰退、消滅寸前に至った石炭産業の資料類の保存例について、三番目に、日本レコードマネジメント株式会社コンサルタント代表山下貞麿氏から自然災害に対して原子力産業における重要記録の管理について、四番目に、沖縄県文化振興会公文書管理部仲本和彦氏から第二次大戦時に米軍により破壊、持ち去られた記録、沖縄の文書について、その記録を再構築した試み事例についてそれぞれ報告があった。
特に沖縄における記録再構築の方法として、オーラルヒストリー(インタビュー方式)で構築した例、9年間かけてアメリカ国立公文書館から記録を探し出した例については、感心させられた。
その他、国立公文書館主催のワークショップとして開催された「日本における資料修復の技術」に参加した。
紙資料の修復に必要な刷毛等の材料を持ち込み、諸外国の方に実際に和紙の裏打ち作業、和装本の綴じ(四つ目綴じ)等を国立公文書館職員の指導の下にワークショップを行った。
外国からの参加者は、和紙や刷毛に触れることが無いため、興味深く、楽しみながら作業を行い、その作成物を自国に持って帰っていた。
4 大会全体の感想
大会では、開催国のマレーシアが140カ国、1,200名を受け入れる規模の国際大会をマレーシア政府(文化芸術遺産省)の全面的なバックアップの元に、マレーシア国立公文書館が成功裏に終了できたのではと思っている
日本側は、積極的に多くのセッションやワークショップを企画して、日本の公文書館業務を発表して他国と交流を深めていた。また、4年に一回開催されるこの大会を将来日本で開催することをアピールしていたが、現状の体制では困難との認識であった。
しかし、現在、日本における文書管理法制度の確立の動きがある現状の中で、その新しい波に乗って、将来その希望をかなえることができる体制が日本において整えられて、ICAの開催が実現されることを願っている。
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