古文書・私文書資料の整理と情報提供 ―その現状と課題について―
郷土資料課 上田 良知
はじめに
開館15周年を迎えた本年、郷土資料課が所管する古文書・私文書等資料の数は13万件を越えた。
当館の業務のうち、行政資料課における公文書の収集・選別・保存に関しては、当館紀要や年報等に報告されている通りである。対して、郷土資料課の業務は、所在調査と収集に関しては触れているが、それ以外にこの13万点におよぶ資料をいかに管理・保存しているかという点に関して触れたものはない。
そこで、本報告では郷土資料課における古文書・私文書等資料の管理、つまり資料の整理から公開・情報提供について紹介するとともに、その問題点についても検討していく。
1.古文書・私文書資料の現状
当館が所蔵する古文書・私文書資料の数は、平成20年3月31日現在130,718点である。整理が完了していない資料は計上していないため、実際にはこの数を上回る。
これらの資料は、1点1点中性紙の封筒に入れて情報を記し、整理の完了した資料は館内検索データベースに入力され、閲覧に供される。
公文書館における古文書・私文書等資料の整理は、県史編集時の方法を踏襲している。
県史の調査は、時間的制約のもと行なわれたものであり、必要な資料だけ抽出されていたり、近代資料は調査対象となっていなかったりといった事実がある。ただし、こうした点は文化資料館から公文書館、もしくは各市町村教育委員会が県史の後追い調査をし、さらに精密な所在の確認を行なっている。
文化資料館の整理は県史と違い時間的制約は小さく、資料群を網羅的に調査している。しかし、ここでも問題はあり、県史調査時に対象となった後に寄託・寄贈により受け入れた資料群において、県史調査時に時間的制約で一括されたと思われる資料をそのまま残しているものがある。また、年代の異なる同系統の資料を数点から数十点一括しているといったことが見受けられる。こうした点は全て解消されておらず、現在も作業中のものが多数ある。
公文書館へ移管された後は、文化資料館の終わりごろから始められていたクラフト封筒から中性紙封筒への切り替えが行なわれ、一括されていた資料も一点一点分けて入れるようになった。これは、資料に関する詳細な情報を提供できるようにすることと、公文書館では一回の請求につき閲覧は10点までという制限を設けていることから、これに対応した資料管理が行なえるようにするためである。
しかし、データベースへの入力時に、古い県史調査時の目録を使用していた例があり、現状にそぐわないものもみられる。
また、せっかく一点ずつに分け、別個にデータに入れた資料を、古い県史目録の状態を維持する為なのか、封筒に穴を開けて紙縒りで結びつけてしまっており、一点の請求に対し数点まとめて出さざるを得ない状態も生じている。当館では、県史・文化資料館以来の引き継ぎ資料は当時の分類を生かし、一括資料を分ける際には枝番を振って対応しているので、紙縒りで結ぶ必要性は全くないにも関わらず、である。紙縒りでの結びつけ以前に、封筒に生じた亀裂・穴等のダメージは資料を痛めることにつながっているので、発見次第改めている。
また、封筒に資料の情報を記入する際にも多分に問題が生じている。県史から文化史料館時代は不明だが、少なくとも公文書館開館以降、封筒への情報記入(以下、封筒書き)に関して統一方針が必ずしも定まっていなかった。そのため、資料の情報提供の第一歩となる封筒書きが、全く意味を成さないものとなっている例が多数見られる。
例えば、次のようなものがみられる。
-
資料名:表題なし
表題の記されていない資料で、「表題なし」という仮題を付しているもの。資料情報自体は内容で補ってはいるが、その内容も的を射ていないものが多数である。同様なものに、「前欠」「断簡」などもある。 -
資料名:…云々
表題の記されていない資料で、文章の冒頭部分をそのまま抜書きし、以下を「云々」で省略し表題としている。書簡に多く見られ、内容情報を補っているものもあるが、多くは「…云々」という表題のみである。その中には、「拝啓(時候の挨拶)云々」というものも多く見受けられる。 -
資料概要:(記述内容について)
表題だけでは資料の内容が不明なものの補足として内容を記した資料のうち、本文を全て内容として書き出してあるもの。説明文である内容の体裁としては不十分であり、データベースでは文字数制限があるため全て入りきっていない。
このようにして作成された資料情報をデータベースに入れており、検索しても本来たどり着けるはずの資料にたどり着けない状態となっている資料が多数ある。
資料の保存に関しても問題が多い。当館では、県史時代の形態別分類の名残から、資料の形態に合わせた封筒をそろえている。県史当時の形態別の整理である場合、同じ大きさの封筒ごとにまとめて箱に収納していたので問題はなかったのだろうが、現在形態別分類は行なっていない。そのため、資料形態に合わせて封筒を選ぶと、例えば角3の封筒の間に長2の封筒が一点だけ入るということがある。この場合、閲覧で長2の隣の角3が出されて、戻す際に長2の資料をつぶしてしまうということが起き、保存上好ましくない。
この他、大きさの合わない箱に無理やり詰め込まれてゆがんでしまった資料や、箱の許容量以上に詰め込まれて圧着されている資料などがある。
以上のように、当館における資料の整理、データベース登録のいずれにおいても問題がみられる。そのため、いずれの作業も適正に行なわれるような体制作りの必要性がでてきた。加えて、封筒書き・データベース登録は、互いの情報を共有することから、それらを見越した封筒書き・データベース登録の凡例策定を行なうこととした。
2.古文書・私文書等資料の整理
2.1.古文書整理の略歴
当館における古文書・私文書等資料がどうして現在の形となっているかを理解するには、古文書調査・整理の歴史を見ておく必要がある。
神奈川県史が編集されていた当時の古文書(主として近世地方史料)の調査は、主に形態別・主題別といわれる方法によりなされている。
形態別分類というのは、「記録帳簿の冊子類と一紙ものの証文・書付類とに形態的に大別する」(註1)という方法である。形態別に分類すると、「作帳された銘柄が自然と区分され」て「御用留・宗門人別帳・五人組帳・検地帳・年貢勘定帳など」(註2)にまとめることができ、時間をかけずに整理を行なえるということで取り入れられたようである。
また主題別分類も、資料を利用しやすいように、内容によって項目を設けて分類していく方法である(分類項目についてはこれまで様々なものが提示されており、ここでは省略する)。
いずれも、効率性と整理者自身の研究利用のための利便性を追求したものである。
しかし1980年代以降、「記録史料の現物を形態別、時代別、主題別などによって機械的に分類することは整理というよりもむしろ記録史料群の生体解剖にほかならない」(註3)との観点から、形態別・主題別分類による調査は行なわないのが主流となってきている。
その調査方法は、「出所の原則」「現秩序尊重の原則」「原型保存の原則」を踏まえた整理である。
こうした資料整理については、実は戦前から言われていた。三浦周行氏は、欧米において「古文書は所謂respect des fonds(註4)の原則から、本来一纏めになつて居るものは飽迄も其侭これを保存すべきであつて、夫等が全部に互つて調査を遂げられ本来の関係が了解さるゝ迄は整理の方法も極められない、従つて本来の冊なり綴込なり包なりも古文書の性質や整理の方針がよく解つて来且つ記録に留められる迄は決してそれをほごしてはならぬとされて居る」と紹介し、「古文書の現状を其侭保存して些の撹乱を加へぬことが古文書の保存は勿論、其管理上より視ても寧ろ最近の傾向である」と記している(註5)(筆者注:旧字は常用漢字に改めた)。
また、相田二郎氏は江戸時代の古文書調査について、「かかる多量の古文書は、まず一応整理してから、これらが使用の方法を講ずるようにしなければならない。それには、かかる文書の目録を作ることが、第一の仕事である。次にその内容に基づいて研究項目に照合して分類することも考え得る。しかしこれには注意を要する。単に研究項目を主として分類すると、もとのままに伝来した姿を壊すことがある。このもとの姿が、一つの立派な研究資料となるものである。これは中世の古文書ばかりでなく、近世の古文書においても同様である。このもとの姿を失わないためには、その文書を使用していた当時の区分に従って整頓することが必要である。新しい考案のもとに、自由に目録を作成することは慎まなければならない。根本の資料であるから、もとの形を乱さぬように心懸けることが肝要である」としている(註6)。
こうした提言があったにもかかわらず、戦後に行なわれた資料調査の多くは、形態別・主題別に分類するという方法であった。このような状況について、高橋 実氏は「当時の社会経済状況や、非特権的地方史研究者という存在形態」から鑑み、「時間や労力が少ない条件の中でも利用者そく整理・保存者でなくてはならないという考えから史料を整理してきたのである。だから、いかに早く簡単に整理・利用できるかという観点から形態分け、年代分けなどの方法を編み出してきた」と分析し、「しかし問題は、近年まで長い間その方法に疑問をもたず無批判に踏襲してきたことである」(註7)としている。
この「出所の原則」「現秩序尊重の原則」「原型保存の原則」を踏まえた整理は、房総資料調査会や牛久市史の調査などで実際に行なわれている。
特に牛久市史の調査(註8)は、現状記録のみならず、調査の過程が詳細に記されており、自治体の調査として非常に参考となる。
このように、かつて形態別・主題別分類で行なわれていた調査は、現在、現秩序尊重・原型保存を踏まえた調査へと移行している。
2.2.当館における古文書・私文書等資料の整理
公文書館収蔵資料は、県史から文化資料館時代に整理された多くが形態別(冊・横・状)・主題別分類によっている。
公文書館に移管されて以降も、開館当初は形態別分類の整理を行なっており、現在でも主題別分類に形態別分類が混交された状態で整理が続けられている。
しかし、先に挙げた資料整理における三つの原則を取り入れた、新たな整理法の模索が必要である。そのためにも、資料の内容のみならず、現秩序を含めた情報の記録を確実に行なう必要がある。また、前述したとおり、当館における封筒書きに統一性がないものもみられる。これらを解消するため、まず封筒書きについて統一化を図るとともに、最低限記述すべき情報を示した凡例を次のとおりを策定することとした。
当館で使用している封筒は、サイズによって情報記述欄のレイアウトが異なるのだが、主に図1のような記述箇所が設けられている。この仕様の封筒はすでにある程度の枚数が確保されているため、既存のレイアウトを生かしつつ、記述項目を規定することとした。その項目が本稿末の別掲1である。解説の必要な項目について見ていく。

【資料名】は、旧字・略字を常用漢字とすることとした。この主な理由は後述のデータベース入力に関連するのだが、もう一つの理由として、外注した際、旧字を読めない人が似たような漢字を入力してしまうという事態が発生しているので、その対策でもある。綴資料の記述に関しては、方法がばらばらであったため、統一した指針を示した。
【年代】の「(江戸)」や「(明治)」については、以前の記述は「(江戸期)」「(明治期)」であったが、後述するデータベースの文字数の関係から極力文字数を削る方向にした。
【現状記録】はこれまで記されることはなかったが、「原型保存」の観点から、資料同士がどのような状態で伝来していたかを記録することとした。
記述箇所については、図2の通りとした。

このように、各項目についてその記述すべき事項を示し、さらに封筒のどの箇所に記述するかを明確にすることは、続くデータベース入力作業において、特に外注など第三者による入力ミスの軽減することにつながる。
2.3.データベースへの登録
当館のデータベースは、開館当時に作成されたものを、機器の更新とともにアップグレードしているが、基本的には同じものを使用している。
その入力項目は、図3の通りである。各項目には文字数制限もあり、封筒書き凡例とともに、入力についても適正な作業が行われるようにする必要が出てきた。そのため、データベースへの入力については、別掲2のような指針を示すこととした。解説の必要な項目について見ていく。

図3 神奈川県立公文書館情報管理システム(館内データベース)登録画面
まず【共通項目】についてだが、これまでは封筒に旧字で書かれていた場合そのまま入力されていた。しかし、利用者はわざわざ旧字で検索するだろうか。加えて、あいまい検索のできない当館のシステムでは、検索時に地名・人名等に旧字と常用漢字を用いたデータが両方存在していると、旧字と常用漢字それぞれで検索を行なわなくてはならなくなる。利用者にとって「横浜」と「横濱」は同一のものであっても、データベース上ではまったく別のものになってしまうのである。そのため、常用漢字にすべて改めることとした。
【目録作成者名】は、開館初年に入力されたデータについては入力担当者名が入力されていたが、翌年以降は公文書館名になっている。しかし、何かしらのトラブルが生じた際に、担当者名が入力されていれば入力時の情報にたどり着くことが容易になるため、担当者名を入力することとする。
【作成時期】については長々と注意があるが、当館のシステム上の問題のみである。
【作成者】は公文書の入力で使用するものであり、資料群の中に公文書に類するものが含まれている場合を想定したものと推測されるが、使用しないこととした。
【資料名】には、以前のデータでは封筒書きの資料名欄に書かれている情報(資料名・内容・備考)が全て入力されている。しかし、文字数制限があるため、内容情報の欠落が見られるうえ、そもそも内容や備考の情報は資料名ではない。そのため、内容・備考の情報は【資料概要】項目に入力することとした。また、綴資料の入力に関しても方法がばらばらであっため、入力方針を統一化した。
【差出人】および【受取人】は、肩書きと人名が連続し入力されていたため、スペースを入れて肩書きと人名の明確な区別化を計った。
【主題】は、入力しても検索・情報提供に反映されないため除外した。
【資料概要】は、【資料名】項目でも述べたとおり、封筒書きの内容と備考の項目を入力することとした。封筒書きの備考情報は、【備考】項目に入力することも考えたが、詳細情報(図4)を表示した際に備考は最下段になり目に付きにくいため、【資料概要】への入力とした。また入力箇所のない現状記録情報も、備考同様に資料概要に入力することとした。

図4-1 詳細表示画面 ディスプレイ表示部分

図4-2 詳細表示画面 全体
【分類】に関しては、もととなる分類コードが情報として活用されていないため用いないこととした。
【保存状況記録】は、資料の状態(破損の状態や修復の状況)を入力する項目で、最初の段階では入力せず、必要があれば後に入力することとした。
【県史編集時収集資料サイン】は、県史写真製本のみ有効な情報であり、原文書においては除外した。
【備考】は、閲覧請求があった際の補助情報欄として活用することとし、資料の収納されている箱番号および封筒に記されている分類名・番号を入力することとした。
以上が、当館データベースの登録方針である。
これらの封筒書き凡例、データベース入力指針にのっとれば最低限の資料整理と情報提供は可能となると考えるが、いずれもいまだ試用段階の域を出ていない。
3.古文書・私文書資料情報の提供
3.1.情報提供の現状
当館で収蔵している古文書・私文書等資料の情報提供は、主に館内データベース「神奈川県立公文書館情報管理システム」(図5)と当館ホームページ「収蔵資料の検索」(図6)にて行なっている。いずれも、キーワードを入力して資料を探す、Webと同様の方式となっている。

図5 神奈川県立公文書館情報管理システム(館内データベース)検索画面

図6 神奈川県立公文書館ホームページ収蔵資料の検索(古文書・私文書等)検索画面
例えば、自分の住んでいる地域のことを調べるため、地名を入れた検索を行なうとする。ここでは生麦村(現在の神奈川県横浜市鶴見区生麦)を検索してみる。すると、図7のように生麦村のキーワードを含む資料が、全データから抽出され、一覧で表示される。さらに詳細表示ボタンをクリックすれば、図4のような画面が表示され、資料の詳細な情報を得ることができる。

図7 検索結果(生麦村)
予備知識がない場合に検索するには、非常に良いシステムであるとは思う。しかし、特定の資料群に狙いをつけて検索した場合、必ずしも十分な機能は果たしていない。
当館に寄託されている武蔵国橘樹郡北綱島村 飯田家文書(キーワードとして「飯田家」)を検索してみると、図8の様に表示される。確かに、これで飯田家文書のデータが抽出される。しかし、一画面に6点しか資料が表示されず、さらに詳細表示をしなければ資料の内容がわからない。横断的に見るには、時間と手間がかかるシステムになっている。

図8 検索結果(飯田家)
資料群全体を見るには、やはり旧来からの活字目録のような形態がもっとも適している。
本来、当館でも整理が完了した資料群ごとに冊子目録を刊行する予定であったようだが、県の財政悪化による予算削減とISO14001に基づく環境マネジメントにより、紙媒体での目録刊行は難しいものとなっている。そこで、今年度よりホームページにおいてPDFによる目録の提供を開始した。
3.2.PDFについて
PDF(Portable Document Format)とは、アドビシステムズ社(以下アドビ)により開発された、電子文書のフォーマットである。PDFを採用した理由としては、以下の点が挙げられる。
第一は、各種OSに対応していることである。現在世界中のパソコンでは、様々なOS(オペレーティングシステム)が使用されている。主なものとして、Microsoft Windows、Mac OS、Linuxがあるが、PDFファイルはこのいずれにも対応している。
第二に、閲覧ソフトが無料で配布されていることが挙げられる。PDFファイルは、アドビが無料で配布しているAdobe Readerにより閲覧することができる(註9)。このことにより、インターネットに接続できる環境にあれば、特別なアプリケーションを準備する必要なく閲覧することが可能となる。
第三点は、レイアウトが保たれることである。PDFファイルは、どのパソコンで開いても、文書の構成が崩れることがない。例えば、ジャストシステム社の文書作成ソフトである一太郎で作成したファイルを、Microsoft社の文書作成ソフトWordで開くと、互換性はあるがその構成は完全には一致しない。これはその逆でも同様である。対して、PDFファイルは、環境の異なるパソコンで開いても文書の構成が崩れることがないため、環境の違うパソコンを使用する人に、正確な情報を提供することが可能となる。
第四は、セキュリティの設定ができる点である。セキュリティを設定することにより、文章や画像のコピーを防止することができ、無秩序な流用を避けることができる。
最後に、ファイル作成が容易なことである。PDFの作成に、特別な技術は必要ない。廉価な市販ソフトやネット上で配布されているフリーソフトを使用すれば、文書作成ソフトや表計算ソフトで作成した画面をそのままPDFに変換することができ、よけいな作業を行なう必要はないのである。
以上の点から、費用対効果は非常に高いものと考える。
また、2008年7月にはPDFバージョン1.7が国際標準化機構によってISO32000-1として標準化されている。ただし、使用ソフトの都合上、当館ホームページより発信しているPDFファイルの多くはバージョン1.5以前のものとなっている。
3.3.ISAD(G)への配慮
当館のPDF目録においては、今までと違った取り組みを始めている。それは、資料群情報の提供である。
これまでも、所在調査目録や刊行した収蔵資料目録でも、凡例で概説的に資料群について触れることはあった。しかし、PDF目録では、ISAD(G)を考慮に入れた文書群情報を添付することとした。
ISAD(G)とは、International Council on Archives(国際文書館評議会、ICA)により提示された「国際標準:記録史料記述の一般原則」(General International Standard Archival Description)のことである。
ISAD(G)の規則は「マルチレベル記述規則」と「記述要素の共通化」に大別される。
「マルチレベル記述」とは、「記述対象となる史料群をフォンド単位で把握し、フォンドを最上位として、以下シリーズ、ファイル、アイテムというレベルに分けて群の内部構造を把握する、という編成方針」を前提に、「こうした階層把握を踏まえ、各レベルごとに共通の記述要素を用いて情報を記述していき、そうして得られた各記述をリンクしていくこと」(註10)である。つまり、資料群の中にある文書を、また、「記述要素の共通化」は、そのまま記述する項目の共通化を図ったもので、表1のような要素が提示されている。

表1 ISAD(G)の記述要素(森本祥子「アーカイブズの編成と記述標準化―国際的動向を中心に」より抜粋)
1 個別情報のエリア | 4 公開および利用条件のエリア |
---|---|
1.1 レファレンス・コード 1.2 タイトル 1.3 資料作成年月日 1.4 記述レベル 1.5 数量 |
4.1 法的位置づけ 4.2 公開条件 4.3 利用または複写条件 4.4 使用言語 4.5 物的特徴 4.6 検索手段 |
2 コンテクストのエリア | 5 関連資料のエリア |
2.1 作成者名称 2.2 組織歴または履歴 2.3 資料蓄積年月日 2.4 伝来 2.5 入手先 |
5.1 オリジナル資料 5.2 複製 5.3 関連資料 5.4 他機関所蔵関連資料 5.5 出版書誌情報 |
3 内容および構造のエリア | 6 ノートのエリア |
3.1 資料内容 3.2 評価,廃棄処分,保存年限 3.3 追加受入 3.4 編成 |
6.1 ノート |
なお、今回International Standard Archival Authority Record of Corporate Bodies,Persons and families(国際標準:団体・個人・家に関する記録史料オーソリティ・レコード、ISAAR(CPF))については導入を見送った。
3.4.神奈川県立公文書館における資料群情報の記述
ISAD(G)を用いた目録記述はこれまでも他で試みがされているが、当館においても、それらを参考にISAD(G)の適用を試みた。ただし、現段階においてはフォンドレベル記述のみにとどまっている。
当館では表2のとおり記述要素を選出し、それに基づき別掲3のとおり資料群概要を記述することとした。
表2 PDF目録の資料群記述要素について
ISAD(G)記述要素 | 公文書館における要素名 |
---|---|
個別情報のエリア | |
レファレンスコード | 資料群ID |
タイトル | 資料群名 |
資料作成年月日 | 資料年代 |
記述レベル | (不採用) |
数量 | 点数 |
コンテクストのエリア | |
作成者名称 | (不採用) |
組織歴または履歴 | (不採用) |
資料蓄積年月日 | (不採用) |
伝来 | 伝来 |
入手先 | 受入 |
内容および構造のエリア | |
資料内容 | 資料群概要 |
評価、廃棄処分、保存年限 | (不採用) |
追加受入 | (不採用) |
編成 | 編成 |
公開および利用条件のエリア | |
法的位置づけ | (不採用) |
公開条件 | 公開条件 |
利用または複写条件 | 複写条件 |
使用言語 | (不採用) |
物的特徴 | (不採用) |
検索手段 | 検索手段 |
この資料群情報は厳密にはISAD(G)とは違うものであり、あくまで準拠である。記述内容についてもまだ手探りの状態であり、改善が必要である。また、平成20年10月1日現在、PDF目録化している資料群は点数の少ないものであり、マルチレベル記述は行なっていないが、今後点数の多い資料群に関してはマルチレベル記述を取り入れて行きたいと考えている。
おわりに
以上、当館における古文書・私文書資料の整理と情報提供について簡単に述べてきた。
しかし、今回示したのはあくまで試案の域を出ておらず、今後、郷土資料課がいかに古文書・私文書等資料を扱っていくかについての検討課題は山積しており、早急な対策が必要である。
【註】
- 児玉幸多ほか編『古文書調査ハンドブック』(吉川弘文館 1983年)
- 同前
- 安藤正人『記録史料学と現代―アーカイブズの科学をめざして―』(吉川弘文館 1998年)
-
「フォンド尊重:個人,家,団体によって,その役割や活動のために作成,または蓄積された記録は,他の個人や団体の記録と混交ないし結合させてはならないという原則.」
「フォンド(Fonds):「特定の個人,家,団体が活動するなかで,有機的に作成され,蓄積され,使用された記録の総体.〔その記録は〕形態や媒体を問わない.」(アーカイブズ・インフォメーション研究会『記録史料記述の国際標準』北海道大学図書刊行会 2001年) - 三浦周行『欧米観察 過去より現代へ』(内外出版株式会社 大正15年)
- 相田二郎「古文書と郷土史の研究」(『古文書と郷土史研究 相田二郎著作集3』名著出版 1978年所収)
- 高橋 実「文書調査の現段階」(松尾正人編『今日の古文書学第12巻 資料保存と文書館』雄山閣 2000年)
- 『牛久市小坂・斎藤家文書概要調査報告書』(1993年)
- Adobe Reader以外にも閲覧ソフトは配布・販売されている。
- 森本祥子「アーカイブズの編成と記述標準化―国際的動向を中心に」(国文学研究資料館史料館編『アーカイブズの科学』柏書房 2003年)
【その他参考文献】
- 伊地知鐵男『日本古文書学提要』(新生社 1966年)
- 中村直勝『日本古文書学』(角川書店 1971年)
- 『岩波講座 日本歴史 別巻2』(岩波書店 1976年)
- 『日本古文書学講座 第7巻 近世編2』(雄山閣 1979年)
- 『岩波講座 日本通史 別巻3 史料論』(岩波書店 1995年)
- 安藤正人・青山英幸 編著『記録史料の管理と文書館』(北海道大学図書刊行会 1996年)
- アドビシステムズ社webサイト(http://www.adobe.com/jp)
別掲1 封筒書き凡例(試案)
【資料名】
- 原文書に書かれている表題を忠実に写すことを原則とする。但し旧字・略字は常用漢字に直す。
- 宛字・誤字はそのまま記入し、当該箇所右側に「(ママ)」を付す。
- 雛形・写し・下書などの場合、表題の下に「(雛型)」「(写)」「(下書)」などと記す。
-
表題がない場合は仮題を付し、亀甲括弧〔 〕で囲む。仮題を付す場合は、仮題に内容を内包させる場合と、仮題の後に内容を記入する場合を適宜使い分ける。
例:〔○○につき達〕 〔書簡〕(○○につき) -
綴りの場合、一点一点の表題は取らず綴全体としての仮題をつけるか、一点一点に丸番号をつけて表題を取る。
注意:丸番号をつける際は、資料名の頭に丸1、丸2・・・と付し、以下、差出人/請取人の項も同様に丸番号をつけて取る。但し、年代・形態・数量・備考は丸番号をつけず全体のものを取る。
【内容】
- 表題だけでは内容の分からないものや、必要と思われる事項のある場合に記入する。
- 原文書をそのまま書き写さず、一文程度に要約し、現代仮名遣いを使用する。
- 記入箇所は資料名欄で、資料名の後に丸括弧( )で記入。
【年代】
- 元号は常用漢字で記入。
- 十干十二支は、元号がない場合に十干十二支の記載があれば記入する。
- 数字は算用数字を使用のこと。但し、元年や正月・極月、朔日・晦日などはそのまま記入する。
- 推定年代については、推定の範囲を丸括弧( )で囲む。
- 年未詳については、江戸時代と分かるものについては「(江戸)」とし、明治時代以降については「(近代)」とする。また、元号の時期が確定できる場合、「(明治)」「(大正)」「(昭和)」などと記す。全く分からないものについては「(未詳)」とする。
【差出人/請取人】
- 原則として文書作成の中心となった当事者1名を書き、他の連名者は「他_名」と略す。数字は算用数字を使用のこと。
- 当事者が村役人などで肩書きがついている場合は格が上の者を記入。
- 「名主・組頭・百姓代」など、役職名のみが連名となっている場合は、全て記す。
- 請取人の敬称は付けない。ただし、「村役人衆中」や「名主中」はそのまま記入。
- 人名等の漢字の扱いは資料名の項に準ずる。
- 住所の記載がある場合、江戸時代のものは知行主名があればそこから記入し、明治時代以降は国/県名(大区小区)以下字(町)名まで記入する。番地は原則として記入しなくてよい。また、「右」や「右村」などと略されて記載されている場合は、「右村(○○村)名主 ○○」のように記入する。
【形態・数量】
- 形態は、封筒記載の所定の箇所を○で囲む。
- 封筒記載外の形態が見られるときは、記載項目の下に記入のこと。
- 数量は算用数字を使用し、単位は記入しない。
【備考】
- 記入位置は資料名欄の左端とする。
- 端裏書・奥書・奥裏書などがある場合、その旨を記し、誰のものか分かる場合はそれも記入する。
- 印刷物である場合、「木版」「活版」「謄写版」「蒟蒻版」「青焼」などと記す。
- 「包紙」「封筒」などの有無も記入する。
- 断簡の場合も「断簡」と記入する。
- 資料の破損・汚損・虫損などの状態が顕著な場合には、その旨も記入のこと。
【現状記録】
-
封筒、綴紐、包紙などで一括されていた資料を、枝番を付けて別々の封筒に整理した場合は、封筒の欄外左下にその旨を記入する。
例:1-1から1-3は封筒一括
【調査/受入年月日】
- 年は西暦4桁で記入し、数字は算用数字を使用のこと。
別掲2 古文書・私文書検索データ登録の入力作業項目について(試案)
【共通項目】
- 旧字は常用漢字に直す。 例)當 → 当、扣 → 控など
【資料ID】【資料群ID】
-
割り当てられた任意の10桁の数字を入力する。
例)9199300001
【資料受入日】
- 資料の寄託・寄贈・購入等の受け入れを行なった日付を入力する。
【目録作成日】
- 自動で入力されるのでなにもしなくてよい。
【目録修正日】
- 目録の修正を行なった場合、日付を入力する。
【目録作成者名】
- 情報を登録した者の氏名を入力する。修正を加えた場合は、修正した者の氏名の前に「【修正】」を加えて入力する。
【作成時期】
-
年代は通常、作成時期(始年)の欄に入力する。
例)享保14年5月
-
年代に幅がある場合は、作成時期(始年)と作成時期(終年)の両方に入力する。
例)明治15年4月から7月
-
元年・霜月・極月・朔日などの場合は、直して入力する。
例)文化元年極月
-
年代が推定(括弧くくり)になっているものは、作成時期(西暦特定不可)の欄に全角で括弧の付いたまま入力する。
例)(明治)5月7日
注意:西暦特定不可の最大入力文字数は全角10文字なので、収まりきらないときは推定の括弧を省略していく。
例)「(江戸)子年0月00日」(11文字)→「江戸)子年0月00日」
例)「(江戸)午年00月00日」(12文字)→「江戸午年00月00日」 -
旧暦閏月の入力は、年は作成時期(始年)の欄に入力し、月日は西暦特定不可の欄に全角で入力する。
例)寛文7年閏2月18日
- 元号が切り替わる年は、新元号にのみ対応しているので、以下のように処理する。
例)慶応4年と明治元年について(西暦1868)
慶応4年は9月7日までで、9月8日からは明治元年となる。
検索システムの年代コードは、西暦1868年は明治元年のみに対応しているため、9月7日までの慶応4年の資料は、プルダウン(コード入力)で入力できない。
そのため、慶応4年分は西暦特定不可の欄に全角で入力する。
明治元年分は通常通り入力する。
【作成者】
- 入力しない。
【資料名】(全角80文字以内)
- 封筒の資料名の項目を入力する。
- 資料概要(括弧内)を間違って入力しないこと。
- 綴りの資料で、資料名が「丸1 丸2・・・」となっている場合、機種依存文字である丸番号はデータベースに対応していないので、「1. 2.・・・」と直して入力する。なお、文字数超過の場合は、肩書きを先頭から必要なだけ省略する。
【差出人】【受取人】(各全角50文字以内)
- 封筒の差出人・請取人の項目をそれぞれの欄に入力する。
-
肩書きと人名の間にはスペースを入れる。複数人の場合は、人名と他●名の間にもスペースを入れる。
例)名主甚左衛門他2名 → 名主□甚左衛門□他2名
- 綴りの資料で、差出人・受取人が「丸1 丸2・・・」となっている場合、機種依存文字である丸番号はデータベースに対応していないので、「1.2.・・・」と直して入力する
【主題】
- 入力しない。
【原資料・複製の区分】
- 該当する項目を選択する。
【資料概要】(全角120文字以内)
- 封筒書き資料名の括弧内(内容部分)を入力する。括弧は入力しない。
-
封筒書きの備考も、資料概要に入力する。
例)封筒あり 後欠 活版etc.
-
現状記録も、資料概要に入力する。
例)No.00から00は封筒に一括されていた
【受入区分】
- 該当する項目を選択する。
【数量】
- 数のみ入力し、単位は入力しない。
【価格】
- 入力しない。
【分類】
- 選択しない。
【公開レベル】
- 該当する項目を選択する。
【保存状況記録】
- 選択しない。
【県史編集時収集資料サイン】
- 選択しない。
【原資料の所在】(全角30文字以内)
- 基本的には館に収蔵されている資料だけなので、神奈川県立公文書館と入力する。但し、館に収蔵されてない場合は所在地を入力する。
【資料形態】
- 封筒の形態の項目を全角で入力する。
【複製の種類】
- 選択しない。
【配架情報】
-
資料が収められた箱の配架されている棚のコードを入力する。
例)4号書庫2列目の棚の8ブロック目に置かれている資料
【備考】(全角50文字以内)
-
資料の収蔵されている箱番号および封筒の分類番号を入力する。
例)箱6に入っている分類年貢のNo.144-1の資料
別掲3 PDF目録の文書群記述規則について
【文書群ID】
- 文書群に割り当てられている10桁の文書群IDを記述する。
【文書群名】
-
当館の記述法則として、文書群が伝来した場所の、江戸時代における国郡村名および家名を文書群名に当てる。
例)・武蔵国橘樹郡北綱島村 飯田家文書
相模国足柄上郡谷ケ村 武尾家文書
【資料年代】
-
文書群内資料の作成年月日を、最も古い年から最も新しい年を表記する。ただし、推定年代((江戸)や(明治)など)と年未詳に関しては含めない。月日の記述は不要。
例)元禄13年(1700)から明治25年(1892)
【資料群概要】
- 資料群の主題内容について簡単な要約を記録する。同一文書群内のほかの記述要素で与えられている情報を、ここで繰り返してはならない。また、個別の資料について言及しない。
【点数】
-
資料IDのついている数(件数)および総数量(点数)を記述する。
例)92件(100点)
【伝来】
- 所有権と管理の移動、ないし所有権または管理の移動を、その日付とともにそれぞれ確認できる限り記述する。管理の経緯が不明ならばその旨を記録する。
【受入】
-
文書群の寄託者名・寄贈者名・購入先、受入日を公にできる限り記録する。受入先が不明な場合は、その旨を記録する。
例)・平成18年3月24日、古書店より購入
平成19年3月11日、石井達也氏より寄託
【編成】
- 文書群の編成方法についての情報を与える。内部構造の重要な特徴や資料の秩序を具体的に記録し、また必要に応じて、それらをどのように扱ったかについても記録する。
【公開条件】
-
文書群の公開制限、または公開に影響を与えるような条件があるばあいには、それについての情報を与える。非公開の期間や資料の公開予定日を記録する。
例)・壬申戸籍とそれに類する資料は非公開。
原資料の閲覧は不可。閲覧はマイクロフィルムのみ。
【複写条件】
-
文書群の公開後、利用や複写にかかわる条件についての情報を記録する。文書群の利用・複写・出版に関する条件が不明であるか、または条件がない場合は、何も記録しなくてよい。
例)・複写可。ただし撮影のみ、電子コピー不可。
所蔵者の許諾を得ること。
【検索手段】
-
文書群の内容について情報を提供する、記録史料所蔵機関や記録作成者が作成した検索手段に関する情報を与える。必要に応じて、その検索手段の複製物入手方法を記録する。
例)・神奈川県立公文書館情報管理システム(館内)
神奈川県立公文書館ホームページ収蔵資料の検索(Web)
PDF目録(館内・Web)
TEL:045-364-4461
FAX:045-364-4459