神奈川県立公文書館における公文書等の収集から閲覧までのシステム管理について―その現状と方向性について―
遠藤 茂
はじめに
神奈川県立公文書館は、平成5年の開館当初から、公文書館条例に基づき、県機関(公安委員会を除く)の保存期間満了後の現用でなくなった公文書等を公文書館に引き渡すことを義務付け、このため、公文書等を選別・廃棄することを公文書館長の権限としたことが大きな特色としてあげられる。
その公文書等保存業務の流れのなかでは、体系的に整備された収集システム、選別基準等の規程や、選別マニュアル等による選別システム、保存マニュアル等による保存システム等により長年の実績を積み重ね、試行錯誤のうえ保存業務をシステム的にすすめている。
しかしながら、公文書館の収容能力にも一定の限界があるため、保存スペースの限界の問題や、今後進められるであろう公文書の電子化への対応の問題等が生じている。
そのため、今までの、システム的に行われてきた保存業務の実績を踏まえて、課題の検討、解決、方向性について考えてみたい。
1.公文書等の保存業務の実績とシステム化について
公文書等の保存業務のシステムの一年間の流れは、まず、(1)「県各課文書担当への事業説明会」から始まり、(2)「県機関の各拠点からの公文書等の収集」、(3)「歴史的公文書等の選別」、(4)「歴史的公文書等の保存」へと続き、最後の(5)「歴史的公文書等の閲覧」で終結する。(公文書等の収集・保存・選別・廃棄・閲覧の流れ 資料1を参照)
1.1公文書等の保存についての県担当者への事業説明会の開催
県機関(所属)から公文書館への公文書等の引渡しが円滑に実施されること、及び、公文書館業務についての理解をより一層深めることを目的として各所属の文書事務担当職員を対象に説明会を年一回(3日に分けて実施)実施している。
1.1.1事業説明会の開催実績
事業説明会の内容は、公文書等の収集(引渡し)について、歴史的公文書等の選別について、歴史的公文書等の利用(閲覧・ネット検索)について公文書館の担当職員が説明を行い、最後に館内説明を行っている。毎年三日間合計で200名前後の参加実績がある。
この説明会により、各所属の文書担当職員に「皆さんが起案した公文書は、歴史的価値のある公文書として公文書館で永久的に保存されますよ」と繰り返し説明し、公文書の作成段階からの意識啓発に努めている。その結果、最近の傾向として引継ぎ文書の内容が段階的に良くなってきており、公文書の保存業務が効率的に行われるようになってきている。
1.2県機関の各拠点からの公文書等の収集(引渡し)について
県の各機関が作成し、保存期間の満了した公文書等の中から歴史資料として重要なものを保存して、閲覧に供するため、公文書等の収集(引渡し)はその第一歩として重要なものと認識している。
公文書等の収集(引渡し)は、「神奈川県立公文書館条例第3条」で、県の各機関(公安委員会を除く。)に、その保存する公文書等が、保存期間が満了し、現用で無くなったときに、当該公文書等を公文書館に引き渡す旨を義務付けている。そのことにより公文書等の収集がシステム的にスムーズに行われるようになっている。この出発点が全国的に高い評価を受けている点であり、特色でもある。
収集(引渡し)については、平成19年度は、前期(3月から7月)からは本庁機関と横浜市内、川崎市内の出先機関を中心に9箇所の拠点、後期(8月から10月)は県全域の出先機関で14箇所の拠点に職員を派遣して内容のチェックを行い、委託した運送会社の車両で運搬し、受け入れている。
1.2.1公文書等の収集実績
平成18年度の収集(引渡し)実績は、本庁機関・出先機関を含めたフォルダー文書(保存期間が3年・5年の文書)が8,751箱であった。その他、既に、公文書館の中間保管庫に移され保存されていた簿冊文書(保存期間が10年・30年の文書)が948冊を受け入れている。
公文書館開館後の収集実績は、平成6年度から平成18年度までの13年間で、フォルダー文書の箱数が124,377箱、年平均で9,567箱、毎年、約1万箱を収集していたことになる。簿冊文書については、15,419冊、年平均で1,186冊を受入れていることになる。
1.3歴史的公文書等の選別について
県の各機関が毎年度作成又は取得し、保存期間満了後に公文書館に引き渡す公文書等は前述のとおり膨大な量となる。しかしながら、公文書館の収容能力にも一定の限界があり、そのすべてを保存することは、資料整理、資料収蔵等の面で合理的、効率的とはいえない。
このため、神奈川県の歴史を永く後世に伝えるため重要な意味を持つ文書を評価判断し、歴史的公文書等として永久に保存し、それ以外のものを確実に廃棄する作業が必要となる。
これが、歴史的公文書等の「選別」作業である。
選別については、前に述べたとおり、公文書館条例第3条で公文書等の引渡しを受けた公文書等について、同条例第4条で、知事が別に定める基準により歴史的資料として重要な公文書等を選別し、保存しなければならないという規程に基づいて実施される。その、基準というのが、「神奈川県立公文書館公文書等選別基準 資料2」及び「神奈川県立公文書館公文書等選別のための細目基準」で、それらの基準に基づいて、客観的に、システム的に選別を行っている。
1.3.1歴史的公文書等の選別実績
歴史的公文書等の選別の単位としては、文書の形態からフォルダー文書と簿冊文書に大別される。保存期間が3年・5年のフォルダー文書は、フォルダーの形態をとり、作成原課にある間はファイリング・システムによって管理される。保存期間の残りの期間は保存期間別の文書保存箱に入れて、本庁の文書は県法務文書課に引き継ぎ保管し、出先機関の文書は所属機関で保管される。10年・30年の簿冊文書は、作成原課において製本されて簿冊の形態として、県法務文書課に引き継がれる。また、作成年度から5年経過後、公文書館の「中間保管庫」へ引継ぎ保管する。その後、双方の文書は、保存期間満了後、公文書館に引渡されることになる。従って、公文書館における選別の単位はフォルダーと簿冊である。
18年度に行った選別の実績としては、フォルダー文書では、収集箱数8,751箱に対し447箱の選別を行い、選別率は約5%であった。簿冊文書では、引渡しを受けた簿冊数948冊に対し選別数は627冊で選別率は66.1%であった。
一方、平成6年度から平成18年度までの13年間で、フォルダー文書の選別箱数は8,853箱で、年平均で約700箱を選別している。収集箱数に対する選別率は平均で約7%となっている。率の推移としては最高が10%、最低が5%で上昇、下降傾向の特徴は示していない。一方、簿冊文書については、同じ期間で、11,849冊の選別を行っている。年平均では約900冊の選別を行っており、引き渡しを受けた簿冊数に対する選別された簿冊数の率は約8割となっている。内容は「フォルダー文書及び簿冊文書の収集・選別数の推移 表1」のとおり。
1.3.2マニュアルに基づく選別のシステム化
選別の方法は、毎年作成される「公文書選別マニュアル」において、選別の対象(フォルダー文書・簿冊文書)、選別の実施時期、選別の基準(公文書等選別基準・公文書等選別のための細目基準)、選別の方法について実施担当課職員に選別担当主任から説明し実施している。
ここで当館での選別作業システムの特徴的なことを述べる。まず、マニュアルに基づいて行政資料課内職員が、全員で各部局を分担し、2から3名でペアーを組んで、現物を見て、協議をしながら選別を進めていく点が上げられる。いわゆる「現物検討主義」を取っている。この作業は特に、フォルダー文書の選別に関しては前述のとおり膨大な量の文書との対応になり、時間と、根気と、肉体的負担がかかることになるが、この作業を、システム的な選別体制の下で行っている。
以上のことから、選別の基準に基づいて行われることと、選別の最中でも、定期的に行われている課内会議の中で協議をしながら進めていくことで選別の「標準化」、「公正化」が図られている。さらに、重要な点としては、その選別結果、つまりなにゆえ「保存」するのか。あるいは、なにゆえ「廃棄」するのかその理由としてその根拠、判断基準を記録として残しておく。そして、その内容について課内の担当職員の会議のなかで協議、検討し、その結果を共有化していく方式を取っている。
フォルダー文書については、「保存文書引継票 資料3」に軽易に記録を明記しているが、簿冊文書については、「簿冊文書選別記録例 資料4」のように様式を定めて行われている。
特に、簿冊文書については、様式の中で個々の文書の内容の概略、選別結果として「保存」、「廃棄」の別、保存の場合は、選別理由、該当する選別基準、また、参考として、過去の選別状況についても記載している。さらに、廃棄した場合についてもその理由を明記している。
公文書の評価・選別は、選別基準等に基づいて、実施されるものであっても、その背後には何故保存、廃棄するのかという明確な理由が用意されていなければならない。その理由の共有化が体系的な評価・選別の基礎になっていると考える。
1.4歴史的公文書等の保存について
前述のとおり選別された文書については、公文書館条例第4条に基づき、歴史的資料として重要な公文書等を選別し、保存しなければならないという規程に基づいて実施される。保存する単位としては、フォルダー文書は文書保存箱単位で、簿冊文書は、簿冊単位で保存している。
1.4.1歴史的公文書等の保存実績
保存作業については、年度毎に作成する「歴史的公文書目録データ入力票作成の手引き」に基づき、選別作業と同様に、課内職員全員で各部局を分担して各文書単位で入力していく。
この際、基本的には、選別を担当した部局の公文書について、同人物がその部分を入力することにしている。その方が、効率的に入力することができるからである。
平成19年度の入力実績は、平成18年度に選別した公文書の目録の入力として、フォルダー文書が3,033件、簿冊文書で646件となっている。入力後、原資料を保存することとなるが、フォルダー文書は、個々のフォルダーを、引き渡し年度、引渡し課名と請求記号を表記した文書保存箱で保存し、簿冊文書については、個々の簿冊に作成年度、作成課名とその簿冊の所在コード番号を表記してそれぞれ書庫に保存している。
1.4.2マニュアルに基づく保存のシステム化
公文書等の保存については、その最大の目的は、その歴史的公文書として、後世まで保存することであるが、それと共に、県民の方が必要とする文書について出来るだけ早く発見できるような記述にすることが求められている。入力されたデータは、その内容を、県民がキーワードを打ち込んで検察するシステムの「公文書館情報管理システム」のデータべースになるからである。
そのため、保存のための入力作成については、前述のとおり「歴史的公文書目録データ入力票作成の手引き」に基づいて、各職員に入力作成の意味として、(1)資料の検索手段として必要なこと、(2)県民が検索しやすい記述内容にすることを特に説明している。また、入力に際し、使ってはいけない文字、数字、単位表記について注意事項として説明している。
その結果、各職員が統一的に、正確に、スムーズにそしてシステム的に行われている。入力様式の内容は、作成機関、作成所属名、作成年度、資料名、資料内容、原資料の所在(請求記号)、作成時期等について入力を行っている。入力後、記載内容のチェックリストを打ち出して、課内職員に回覧し、各自チェックを行い、正確を期している。
1.5歴史的公文書等の閲覧について
公文書館へ引き渡された公文書等は、選別後、歴史的公文書として保存するために電子入力を行い、そのデータを公文書館内にある「公文書館情報管理システム」の検索システムへ移している。県民はその検索システムを介して資料閲覧申込みを行っている。また、インターネット上での検索に対応するため、神奈川県の情報提供システムに、公文書収蔵データを提供して、県庁のサーバーを活用した公文書館のホームページ上で、県民がいつでも、どこでも検察できて、資料が存在することを確認して、公文書館の閲覧窓口で閲覧申し込みをすることができるシステムとなっている。
1.5.1歴史的公文書等の閲覧の実績
公文書館においては、閲覧室に配架されている行政刊行物、参考図書等は自由に閲覧が可能となっている。
公文書館に引き渡されて書庫内に収蔵されている資料の閲覧を希望する場合は、「公文書館資料閲覧申込書」に記入の上、申し込みをすることになる。
ただし、公文書館条例第5条及び同施行規則第4条に規程する「個人に関する情報その他の規則で定める情報が記載されている公文書館資料」については、閲覧を制限する場合がある。
平成18年度の公文書等の閲覧請求件数は、302人で1,688件の実績があった。
主な利用資料は、土地改良区関係、予算査定意見書、神社明細帳(明治期)関係、都市計画関係、県議会議事録等であった。
1.5.2マニュアルに基づく閲覧対応のシステム化
公文書館に保存されている公文書等については、行政資料課が担当している県機関から引き渡された公文書等と、郷土資料課が担当している県内の旧家などに保管されている古文書に大別されるが、その他として行政刊行物・図書があり、それらを含めて県民からの閲覧の申し込みに対応している。
職員の対応の体制は、公文書館職員の課長以下全員体制で対応している。対応の時間構成は、午前の部が9時から12時15分まで、昼の部が12時15分から13時まで、午後の部が13時から15時までと、15時から17時までとなっており、常に二人の体制でローテーションを組んで運営している。
初めて受付を対応するときは、「公文書館受付業務マニュアル」に基づいて経験者から説明を受けて対応しているが、二人の組み合わせは、経験者と経験の浅い者、行政資料課(公文書の主務課)と郷土資料課(古文書の主務課)の組み合わせが基本となっている。管理部門を担当している管理企画課の職員もそのローテーションに組み込まれて対応している。
受付業務で一番注意する点としては、「レファレンス」として県民の方がどのような内容の資料を要望しているのか、いつごろの文書かを的確に把握すること、把握したら検索システムでどのようなキーワードを打ち込めば検索できるかを「アドバイス」すること。検索で確認できたら、閲覧申込みを受けて、所在を確認してスムーズに書庫から取り出して閲覧に供すること。等があげられるが、以上のことについては、「公文書館受付業務マニュアル」に基づいて、必ず二人で協議しながら対応すること、レファレンスについては、必ず相談処理表で記録に残しておき、受付を引き継ぐ際に申しおくることで対応している。
個人情報等が含まれている場合の公文書等の閲覧申込みがあった場合は、閲覧制限情報の内容についてあらかじめ特定した複数の職員でチェックを行い、必要に応じて、閲覧制限を加えることにより対応している。
2公文書等の保存業務のシステムの中での課題と対応について
前項において、公文書等の保存業務の実績とシステム化について述べてきたが、前書きでも記載したとおり、開館してから平成20年で15年を経過することに際して、一連の公文書保存業務についての課題とその解決に向けた対応、方向性に触れてみたい。
2.1県職員への歴史的公文書等の保存業務のさらなる意識啓発について
公文書館においては、事業説明会において、県職員への意識啓発として、公文書保存業務の重要性について説明を行っており、その効果として、引渡し文書の整理が、段階的によくなってきている。しかし、その結果のアンケートの中で、「現用文書の文書管理システムの説明がない」、「現用文書の作成に関する所管課である法務文書課との連携の開催が必要では」との意見が出ている。つまり、参加者の職員の中でも、現用文書管理と非現用文書の管理を連携した説明を希望していることがわかる。
公文書等の保存の意識啓発をさらに進めるには、公文書のライフサイクルの、「原課での起案文書作成、ファイリング保存管理、県民からの情報公開請求対応、公文書館への文書引渡し、そして、最終的に公文書館で選別、保存、県民への閲覧対応」という流れの中で説明する必要があると考える。考え方の基本は、県民のために作成した公文書については、県民からの文書の「公開請求」「閲覧申し込み」に対して対応する義務、責任がある。その公文書を皆さんは作っているのですよ。という認識を啓発することが重要と考える。
2.1.1歴史的公文書等の保存のさらなる意識啓発に向けての事業説明会の方向性
以上のことから、公文書館の事業説明会は、公文書保存業務のさらなる意識啓発という課題から、従来の、公文書館の職員による公文書保存業務の説明に加えて、公文書等のライフサイクルについてその流れを説明し、必要によっては、いわゆる文書保存期間内の「現用文書」の保存管理システムの説明として、法務文書課からの説明、また、現用文書の情報公開システムについて情報公開課から説明を受ける。その際には、当然、事業実施の法的根拠についても説明を受けることになる。
法務文書課と情報公開課との連携を図って実施することにより、今後、検討することが予想される、電子公文書のライフサイクルへの連携した対応の検討につながっていくと考える。
2.2 歴史的公文書等の保存スペースの限界等からくる選別の見直しについて
歴史的公文書等の原資料の保存については、基本的には、保存期間が終わって公文書館に引渡されてきたフォルダー文書(保存期間が3年・5年の文書)と、簿冊文書(保存期間が10年・30年の文書)について、選別を行って電子入力保存処理後、フォルダー文書は作成課名、年度等を表記した文書保存箱を単位として、簿冊文書は、簿冊を単位として書庫に保存している。
公文書館が開館した後の平成6年度から平成18年度までの13年間で、フォルダー文書の選別箱数は8,853箱となっている。年平均で約700箱を選別していることになる。公文書館の開館の前からの箱数を含めると13,382箱を保存している。傾向としては、平成11年度の1,053箱をピークに減少傾向にあって、平成18年度は447箱となっている。
一方、今後の書庫の収蔵キャパシティは、1,880箱で、平成18年度の447箱をベースとすると、平成19年度以降の選別の箱数は、後4年で満杯となる計算となる。
簿冊文書で見ると、平成6年度から平成18年度までの13年間で、簿冊文書の選別冊数は、11,849冊で、年平均、約900冊となっている。冊数の推移の傾向としては、平成10年度の1,288冊をピークに減少傾向であるが、ここ2から3年間の平均は600冊台半ばというところである。
一方、今後の書庫の収蔵キャパシティは、約5,000冊で、平成18年度の約600冊をベースとすると、平成19年度以降の選別の箱数は、後8年で満杯となる計算である。
以上の保存状況を見ると、特に、フォルダー文書の保存スペースがあと4年で飽和状態になる現実が迫っていることが最大の課題である。ここで、この課題を少しでも解消する方策を考えるとなると、一つとしては、選別文書全体のスリム化が考えられる。文書のスリム化は、原資料のマイクロフィルム化及び電子化を行って、それらの媒体を原本保存することが一番の方法かと思われるが、予算面での対応の難しさと、対応の時間的制約等で現実的な解決策とは思えない。そこで、公文書の選別の実績を踏まえた上で、今までの選別状況を見直し、分析して課題を解決して、できれば、保存文書のスリム化につながるような方向性を考えてみることとする。
2.2.1過去の選別状況の分析と課題
歴史的公文書等の選別状況については、選別基準にのっとり、課職員全員で、システム的に進めてきた実績について述べてきたが、ここでは、さらに細かに内容を示し、分析して、そこから課題となるような事項について述べてみたい。
まず、過去の年度における選別数の推移から増減が際立っている部分について見てみたい。
フォルダー文書の選別については、平成11年度から選別箱数が減少している。平成11年度が1,053箱であったのが、平成18年度では447箱で半分以下になっている。選別率についても同様で、平成11年度が約10%であるのに対し、平成18年度は約5%と半減している。(表1参照)
さらに、文書の作成所属の部局別で見ると、環境農政部の平成15年度の選別箱数(62箱)は、前年(141箱)と比べて半分以下、同じように平成17年度の選別数(75箱)は、前年(100箱)と比べると減少している。同様の減少傾向が県土整備部の中で生じている。県土整備部の平成15年度の選別数(86箱)は前年(137箱)と比べて減少している。内容は「部局別選別数の推移(フォルダー文書) 表2」のとおり。
以上のことは、内容を調べた結果、平成11年度の県組織の機構改革の一環で行われた部局の合併に起因すると考えられる。環境農政部は環境部と農政部が合併、県土整備部は、都市部と土木部が合併したものである。その合併後の関係各課の文書が、文書を整理した結果、文書量が減少し、3年・5年の保存期間が終わって、公文書館に引き渡される箱数が減少し、それに比例して選別される箱数も減少したものと思われる。まさに、機構改革という外因による選別数の変動が現れている。
一方で、機構改革以外の理由で、前年と比べ極端に減少している例もある。平成18年度の企画部の選別箱数(7箱)は、前年(25箱)と比べて減少している。同じく、県民部で平成18年度の選別数(7箱)は前年(43箱)と比べて極端に減少しています。この例は、機構改革等の外因は考えられず、選別担当者が年によって変わったためにおきた減少と考える。(表2参照)
つまり、選別基準にのっとり、各担当者がシステム的に標準的に行われているはずが、このような選別基準の解釈の温度差が現れた例と考える。この点については、以下でさらに事例を示して課題としてとらえ検討することとする。
次に、簿冊文書の選別については、フォルダー文書と同様に、平成11年度から選別冊数が減少傾向にある。平成11年度が、768冊であったのが、平成18年度は627冊とフォルダー箱数ほどではないが、減少傾向になっている。選別率についても同様で、平成11年度が約8割であるのに対し、平成18年度は約7割と減少している。
さらに、文書の作成所属の部局別で見ると、県土整備部の平成15年度の選別冊数(12冊)は、前年(132冊)と比べて1割以下に激減している。同じように、商工労働部の平成14年度の選別数(68冊)は、前年(145冊)と比べると減少している。他の部局として、総務部においても年度によって大きな選別冊数のばらつきが生じている。内容は「部局別選別数の推移(簿冊文書) 表3」のとおり。
この原因を、当時の選別担当者に確認したところ、一番の原因は、当該課が、10・30年保存文書の保存期間について延長の申請を行い、課単位で当該年度に公文書館へ引渡しをしなかったためであると判明した。公文書の保存期間が満了した場合は、速やかに公文書館に引き渡さねばならないと「神奈川県立公文書館条例」に定められているが、「神奈川県行政文書管理規則」の中で、「保存期間が満了した行政文書であっても、なお、その必要な期間を限り、保存することができる」と規定されているため、保存期間の延長が認められているのである。
この、保存期間の延長の理由は、県土整備部の開発事業等のケースでは、事業の処理が繰り越しとなっていて処理済にならないという理由が挙げられている。その他の原因として考えられるのは、公文書館へ引き渡すには、簿冊として整理する必要があり、ある年度単位でまとまってから引き渡すことが考えられる。文書作成課が、以上のような理由で安易に期間延長をするケースが多く出てくると、本来の公文書館での公文書等の保存、県民への閲覧目的が損なわれる問題であり、今後の検討課題として受け止めている。
以上は、選別数の推移から現れている課題について考えてみたが、次に平成18年度簿冊文書の選別結果を分析して課題を考えてみたい。
平成18年度に行われた簿冊文書の選別結果は、引渡し簿冊数948冊に対し、627冊の選別を行った。選別された簿冊について、「神奈川県立公文書館等選別のための細目基準」における選別区分が記録にあるので見てみると、一番多い区分は、「許認可、免許、承認等に関する公文書等(許認可承認)」で226冊、全体の4割近くを占めている。部別に見ると、県土整備部と環境農政部の簿冊で8割を占めている。次に「公共施設の建設等のハード事業の実施に関する公文書等(建設等事業)」に該当する簿冊が67冊、「予算、決算等に関する公文書等(予算決算)」で66冊、「起債、補助金及び貸付金に関する公文書等(補助金貸付金)」47冊、「叙位、叙勲、褒章、表彰等に関する公文書等(叙位表彰等)」28冊と続いている。内容は「平成18年度部局別・細目基準別選別数(簿冊文書) 表4」のとおり。
ここで、注目すべき点として、「その他」として区分に属さない公文書等として選別された簿冊が42冊あり、その根拠として「神奈川県立公文書館公文書等選別基準 資料2」において、「選別される歴史的公文書等」に該当する区分として(1)県民生活の推移が歴史的に跡付けられる公文書等」及び(2)県行政の推移が歴史的に跡付けられる公文書等」を基準として選別している点である。この基準は、「次に掲げるもの」として内容を示しているが、選別する担当者としては、抽象的であり、自らの実務経験の有無に左右されるところである。
次に、同じく平成18年度に行われた簿冊文書の選別結果の記録の中から「廃棄処理した理由」について整理してみたい。
簿冊文書の選別結果、廃棄された簿冊数は、引渡し簿冊数948冊に対し、321冊であるが、廃棄率は34%である。その廃棄した理由が記録として残っているが、その廃棄した理由に注目してみたい。
廃棄の理由は、大きく分けて二つのパターンがある。一つは「選別のための細目基準に該当するが、〈軽易な文書である〉、〈定例的な文書である〉〈主務課の文書ではない〉」、二つ目は、「選別のための細目基準に該当しない、かつ、選別基準の歴史的に跡付けられる公文書でもない」の2パターンである。
このパターンで注目すべきは、選別のための細目基準に該当するが、「軽易な文書である」、「定例的な文書である」、「主務課の文書ではない」という根拠で廃棄している点である。これは、「公文書館公文書等選別のための細目基準の区分の中に表現されている文言で、「主務課のものを収集する。」「重複するものは収集しない。」「軽易な内容のものを除く。」「重要な内容なものを収集する。」「話題性に富んだ公文書等を収集する。」等の選別者本人の今までの業務の経験の上によって判断される、どちらかというと曖昧な表現から生ずる選別の温度差ではないかと考える。このことが、前に述べたような担当者による選別のばらつきが生じる原因のひとつではないかと考える。
2.2.2選別の課題に対する対応と今後の方向性
前項で、過去の公文書等の選別状況を分析して、選別数のばらつきを分析してきた。まず、選別者以外の外因として、「公文書の引渡し側の組織の統合等の機構改革の一環」での選別数のばらつき、次に、「公文書の引渡し側の保存期間延長」での選別数のばらつきをあげた。次に、選別担当者側の原因によるものとして、細目基準の「主務課の文書を「軽易なものを除く」「重要な内容なものを収集する」等の曖昧表現から生ずる選別判断の温度差」による選別数のばらつきをあげた。
ここで、個々の選別数のばらつきに対する対応策を考えてみたい。
第一に、機構改革に起因する選別数の年度によるばらつきについては、機構改革という行政の効率化に応じて、公文書等が整理されて、公文書数の減少に繋がったことで、公文書館にとっては、保存、整理するうえでよい傾向ではある。しかし、県民側からすれば、従来の公文書作成課が変わってしまい、当該文書を閲覧申請する際に混乱する恐れがある。そのようなことがないように、組織の統合等の変遷を把握し、当該課の分掌事務の分散、統合の変遷を把握した上で、選別して電子保存する際には、新たな文書作成課のコードを加えて整理、保存している。
しかし、だれもが、一目見てわかるような、細かな分掌事務の流れを表示した一覧表のようなものを作成しきれないのが現状である。今後は、それを、公表してホームページ上にのせて、だれでも、いつでもわかるような対応が必要となる。今後、作成に向けて検討していきたい。
第二に、「公文書の引渡し側の保存期間延長」による、選別数の年度によるばらつきについては、保存期間の延長を「神奈川県行政文書管理規則」の中で、保存期間延長を必要な期間を限り認めてきた。そのやり方としては、10年、30年保存文書について、保存期間が満了する年度末に公文書の作成課長あて、保存期間が満了で、公文書館への引渡しの依頼文を送付して、特に、延長依頼がない場合は引渡しを受けて、延長依頼があった場合は、無条件で認めていた。今後は、延長申請の理由を、「事業の繰越等による未処理等の理由で、まだ、現用文書として課が対応すべき文書」等による理由に限定する。次に、既に30年延長をしている公文書についても、ある一定の期間で、随時、当該課に引渡しの依頼を実行することが考えられる。そのことにより、公文書館への引渡しを促すことができる。その際には、文書作成課に対し、公文書館においては、10年・30年の長期保存期間文書については、選別保存整理して、半永久的に歴史的公文書として、後世に伝えるため、保存管理することを日ごろから説明し、理解をしてもらうための努力を怠らないことが必要である。
第三に、選別担当者側の原因による、細目基準の「主務課のものを収集する」「軽易なものを除く」「重要な内容のものを収集する」等の曖昧表現から生ずる選別判断の温度差による選別のばらつきへの対応である。
「主務課のものを収集する」への対応については、筆者自身、その文書の主務課、すなわち、とりまとめの機関で選別し保存することを実施している。例として本庁機関からの調査・照会文書で、一般的には、本庁から複数の出先機関への照会で、本庁機関で集約されるケースが多い。この場合は、集約される本庁機関で当該文書を保存することになる。
その考え方は、わかるが、この場合、本庁選別担当者と、出先機関担当者との確認事項に基づく信頼関係が重要な条件となる。また、個々のケースによっては、出先機関の文書の方が、県民からの閲覧要求が満たされる内容の場合も実際に生じている。いずれにしても、確認事項に基づく信頼関係の構築と、それを必ず確認するシステムが必要である。それがないと、お互いに不安になって重複して選別するケースが現実では多く生じている。逆に双方で廃棄してしまう危険性があるが、以上の点を徹底すれば、保存公文書のスリム化、効率化に繋がっていくと考える。
次に、「軽易なものを除く」「重要な内容のものを収集する」への対応としては、廃棄すべき文書の例を示すのがばらつきをなくす一つの方法と考える。そこで、次のとおり箇条書きで例を示した。
廃棄すべき文書の例
- 内部管理的な庶務的文書
- 他の部署が所管するもので参考送付された文書
- 他の部署の主催会議の会議報告(復命)書
- 他の部署からの調査照会・報告回答文書
- 伝票類、単票類、簡単な申請書、届、申込書など内容が断片的で、資料的利用に限界のあるもの
- 行政刊行物として内容が記録されているもの
以上のとおり軽易なものとして廃棄すべきものの例をあげてみたが、個々のケースによって判断が難しい場合が多々あるので、結論は、他の担当者と協議して決定するのが得策である。いずれにしても、いままで保存していた文書について、軽易な内容のものを保存したり、重複して文書を保存したケースがあったと思われるので、廃棄すべき文書の類別を参考に選別することにより、保存文書のスリム化、効率化に繋がるものと考える。
最後に、全般的な選別の今後の方向性について考えてみたい。
神奈川県立の公文書館における選別については、先に、条例、規則、マニュアル等に基づき、システム的に実施してきて、いままで述べてきたように選別の実績を示し、その推移の中から、課題として、選別数のばらつきが判明した。そのばらつきをなくすための今後の方向性、結果的には選別文書のスリム化に繋がる方向性について考えてみたい。
まず、一番大事なのは、選別を行うに当たり、「年度の選別の方針を立て、その方針を職員に周知徹底して行うこと。」が、大事であると考える。
その内容について箇条書きで示した。
年度の選別の方針の内容
- 選別文書のスリム化を提言すること。(過去の選別文書の書庫における保存の現状を説明し、具体的に対前年減少割合の数値を示すこと。)
- スリム化を前提として、過去の選別結果の課題、反省を踏まえた内容にすること。(選別のばらつきの原因となっている「主務課のものを収集する」「軽易なものを除く」「重複して選別しない」等具体例や、廃棄きすべき文書の「類別」(先の類別内容参照)を示すこと。
- 安易に過去の選別結果を参考として選別しないこと。(過去選別していても、再度見直して、毎年実施している事業等の定例的文書は、毎年ではなく何年に一度とか年度サンプル的に保存することも検討すること。)
次に、選別の結果について、「選別の記録をとり、後世に伝えること。」その内容について箇条書きで示した。
- 選別の結果の記録をとること。(所定の様式の中に、選別理由等について記載すること。また、選別の途中において課題が生じたら、記録に基づき、随時、課内協議をして、担当者間の連携を図り、その協議の結果について記録をとること。)
- 選別結果の反省点、課題をまとめ記録に残すこと。(その記録について、次年度の「選別方針」に必ず生かすこと。
以上が、今後、選別を実施していく上で考えられる方向性であるが、それは、あくまでも、現在の条例、規則、マニュアル等に基づいて選別を実施し、その過程の中で、それ以上の要素を加味して実施することが大切と考える。
2.3公文書等の電子化対応について
神奈川県では、高度情報化の到来の中で、国の行政情報化の動向にあわせて、平成11年4月から全庁的に本庁及び出先機関を結んだ行政情報ネットワークを整備し、「新会計管理システム」及び「統合文書処理システム」の稼動を開始した。
それに併せて、神奈川県における公文書の電子化対応として、平成11年4月に施行された「神奈川県行政文書管理規程」及び平成12年4月から施行された「神奈川県行政文書管理規則」の中で、行政文書の定義として、従来の紙文書に加え、電磁的記録(電子情報・電子文書)についても対象に位置づけられたことから始まった。また、「神奈川県立公文書館条例」「神奈川県公文書公開条例」、「神奈川県個人情報保護条例」の定義の中でも、「公文書等」の中に電磁的記録も含まれるという解釈で対応している。以下、電子化対応の現状と課題について述べることとする。
2.3.1公文書等の電子化対応の現状
電磁的記録の整理については、「神奈川県行政文書管理規程」のなかで、電磁的記録の主務課長及び所長が保存期間満了までの間、適切に保管することとなっている。その後、保存期間満了後、公文書館に引き渡すこととなっている。いわゆる、紙文書との違いは、紙文書は、処理済みとなった年度の翌々年に「法務文書課」に引継ぎをした後に、保存期間満了後、公文書館に引き渡すこととなっているが、電磁的記録は、文書の主務課が保管して、保存期間満了後、直接、公文書館へ引渡す形である。
電磁的記録の公文書館への引渡しについては、制度上は平成13年度から開始されているが、実際に公文書館に引き渡された電磁的記録は今までは存在していない。「新会計管理システム」で処理された電磁的記録が引き継がれる可能性の文書としてあるが、現状では、まだ、プリントアウトされた、紙ベースの会計処理文書で正式に決裁を行っており、電磁的記録自体が原文書として認められるにいたっていない。従って、紙文書での引き継ぎ、引渡しとなっているのが現状である。
現在、電磁的記録そのものが、原文書として認められているのは、行政の申請等を情報通信の技術を利用する方法により行うための情報システムである「行政手続きオンライン化システム」を活用している電子自治体共同運営の(1)電子申請・届出システム、(2)公共施設利用予約システム、(3)電子入札システム、(4)地方税ポータルシステム、(5)自動車保有関係手続きのワンストップサービスシステム、(6)宅地建物取引業免許等電子申請システムに限られている。それは、「神奈川県電子情報等の利用に係る行政文書事務の特例を定める規程」の中で、主務課長及び所長が当該電磁的記録を「原本」として公文書館に保存期間満了後引き渡すことを特例として規定しているからである。
引渡しの際には、あらかじめ、公文書館と協議して行うこととなっている。今後、主務課と公文書館で、電磁的記録の引渡し方法、引渡し関係添付書類の確認、引渡し電子媒体の種類等を協議しながら進めていくことになる。
2.3.2公文書等の電子化対応の課題と今後の方向性
公文書等の電子化対応の現状について前項で述べたところであるが、本来は、行政文書事務の電子化と連携して、県の行政文書の電子化に対応した「行政文書管理規程」と、この制度を担保する「統合文書処理システム」を一体とした「新文書管理システム(仮称)」を中心として、県機関が作成した保存期間満了の電磁的記録を収集し、歴史的に重要なものを選別、保存し、県民が迅速な検索・閲覧が行えるシステムを整備された上で実施しなければならない。
しかし、公文書館では、現在、そのシステムの実現にむけて、県の情報化・OA化事業の一環とした、「公文書館資料情報提供システムの整備事業」の構想を、県の情報システム課へ協議調書として提出しているが、その回答としては、「新文書管理システムの再構築の動きを睨みつつ対応する」となっており、具体的な検討には至っていない。
本事業構想では、現用文書の管理保存システムである「新文書管理システム(仮称)」及び情報公開に関する「情報公開システム(仮称)」と連携することにより、次のような効果を考えている。
その内容を箇条書きで示した。
- 新文書管理システム(仮称)に登録される紙文書・電子文書の文書件名などの電子情報をもとに、公文書館に引き渡される前に「事前選別(一時選別)」を行うことで、引渡し後の選別作業を大幅に効率化できる。
- 選別目録を改めて入力・作成することなく所蔵目録を作成することや、電磁的記録について、電子のまま閲覧が可能となり、県民サービスの充実が図られる。
- 行政文書事務の電子化によって懸念される県民共有の財産である県機関が作成・収得した電磁的記録の消失を防ぎ、確実に収集、選別、保存、閲覧(公開)することができ、公文書のライフサイクルに的確に対応した、文書管理が可能となる。
以上の効果が期待できるが、システムの実現に向けては次のような前提条件を示している。
- 新文書管理システム(仮称)を基幹のシステムと考えると、公文書館資料情報提供システムはそれと連携したサブシステムとも考えられるため、法務文書課、情報システム課でのシステム開発にあたっては、常に後続の「公文書館資料情報提供システム」の開発も視野に入れたものとする必要がある。
- また、新文書管理システム(仮称)、情報公開システム(仮称)との連携を図り、合理的で、無駄のないシステム開発を進めるためには、関係する所属(法務文書課、情報システム課、情報公開課、公文書館等)で基幹システム開発所管課のイニシアティブの下、その開発の節目ごとに調整等を行う庁内連絡体制の整備が必要である。
- さらに、公文書の閲覧に係るシステム開発については、先行する情報公開課主管の情報公開システム(仮称)開発との重複が予想され、そのノウハウの活用が有効である。
以上が、前提条件であるが、今後、このシステムの実現に向けて、関係各課と調整しながら準備を進めて行くことが、公文書館の公文書等の電子化対応の重要な課題であり、方向性である。
おわりに
筆者は、公文書館に勤務することになった平成18年4月当初は、いわゆる歴史的公文書等の保存業務については、まったく認識が無い状態であった。公文書等については、保存期間が経過した後は、廃棄されて、歴史的公文書として、選別して保存しているとは思ってもいながったのが正直なところであった。
そこで、勤務から2年目の平成19年度に国立公文書館が主催の「公文書館専門職員養成課程」の研修を受け、公文書等の保存業務についてのノウハウを取得する機会をえることができた。その研修の修了のための論文を書くことになり、そのテーマが「神奈川県立公文書館における公文書等の収集から閲覧までのシステム管理について」であった。今回の寄稿文は、その論文を元に記述したものである。
内容については、公文書館の現在までの文書保存業務の実績の分析と、文書等の保存スペースの限界等の課題の設定、その解決に向けて、できれば、現場の職員の意見を取り入れながら記述しようと思ったが、筆者の知識、能力の無さから思うようには記述されていないと感じている。
しかし、過去の、選別等の実績を調べて、分析していく過程の中で、公文書館の課題が把握でき、今後の公文書館運営の発展に少しは貢献できるのではないかと感じている。
表1 フォルダー文書及び簿冊の収集・選別数の推移
年度 | フォルダー文書 | 簿冊文書 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
収集箱数 | 選別箱数 | 選別率 | 収集簿冊数 | 選別簿冊数 | 選別率 | |
平成6 | 9,861 | 614 | 6.23% | 3,000 | 2,988 | 99.60% |
平成7 | 9,646 | 478 | 4.96% | 969 | 611 | 63.10% |
平成8 | 9,430 | 603 | 6.39% | 871 | 607 | 69.70% |
平成9 | 9,595 | 788 | 8.21% | 864 | 615 | 71.20% |
平成10 | 9,306 | 761 | 8.18% | 1,685 | 1,288 | 76.40% |
平成11 | 10,462 | 1,053 | 10.06% | 971 | 768 | 79.10% |
平成12 | 10,190 | 1,013 | 9.94% | 930 | 834 | 89.70% |
平成13 | 9,667 | 755 | 7.81% | 922 | 789 | 85.60% |
平成14 | 9,586 | 741 | 7.73% | 1,251 | 781 | 62.40% |
平成15 | 9,682 | 567 | 5.86% | 830 | 571 | 68.80% |
平成16 | 9,320 | 568 | 6.09% | 1,107 | 745 | 67.30% |
平成17 | 8,881 | 465 | 5.24% | 1,071 | 625 | 58.40% |
平成18 | 8,751 | 447 | 5.11% | 948 | 627 | 66.10% |
計 | 124,377 | 8,853 | 7.12% | 15,419 | 11,849 | 76.80% |
表2 部局別選別数の推移(フォルダー文書)
年度 | 選別箱数 | 部局名 | |||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
総務部 | 企画部 | 安全防災局 | 県民部 | 環境農政部 | 保健福祉部 | 商工労働部 | 県土整備部 | 県政総合センター | 企業庁 | 病院局 | 教育局 | 議会局 | 監査事務局 | 労働事務局 | その他事務局 | ||
平成7 | 478 | 13 | 7 | 1 | 32 | 80 | 60 | 66 | 88 | 56 | 2 | 42 | 2 | 20 | 7 | 2 | |
平成8 | 603 | 13 | 51 | 4 | 47 | 101 | 80 | 74 | 80 | 71 | 2 | 41 | 2 | 19 | 16 | 2 | |
平成9 | 788 | 52 | 37 | 5 | 60 | 141 | 130 | 50 | 90 | 60 | 2 | 76 | 45 | 2 | 25 | 7 | 6 |
平成10 | 761 | 45 | 36 | 11 | 63 | 105 | 103 | 67 | 126 | 70 | 4 | 70 | 19 | 5 | 22 | 8 | 7 |
平成11 | 1,053 | 58 | 110 | 13 | 62 | 155 | 78 | 68 | 208 | 109 | 3 | 68 | 60 | 3 | 26 | 13 | 19 |
平成12 | 1,013 | 49 | 53 | 24 | 90 | 118 | 132 | 138 | 178 | 81 | 3 | 11 | 80 | 3 | 21 | 6 | 26 |
平成13 | 755 | 38 | 57 | 7 | 87 | 84 | 101 | 64 | 151 | 51 | 5 | 2 | 68 | 2 | 24 | 5 | 9 |
平成14 | 741 | 42 | 43 | 25 | 56 | 141 | 95 | 53 | 137 | 61 | 3 | 5 | 52 | 2 | 16 | 6 | 4 |
平成15 | 566 | 39 | 31 | 8 | 29 | 62 | 133 | 43 | 86 | 47 | 6 | 2 | 53 | 1 | 16 | 6 | 4 |
平成16 | 568 | 32 | 27 | 5 | 35 | 100 | 76 | 31 | 65 | 36 | 21 | 2 | 48 | 2 | 60 | 18 | 10 |
平成17 | 465 | 50 | 25 | 5 | 43 | 75 | 72 | 18 | 56 | 39 | 14 | 2 | 39 | 6 | 12 | 2 | 7 |
平成18 | 447 | 51 | 7 | 9 | 7 | 90 | 53 | 13 | 61 | 51 | 7 | 3 | 62 | 7 | 14 | 66 |
表3 部局別選別数の推移(簿冊文書)
年度 | 選別箱数 | 部局名 | |||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
総務部 | 企画部 | 安全防災局 | 県民部 | 環境農政部 | 保健福祉部 | 商工労働部 | 県土整備部 | 企業庁 | 教育局 | 議会局 | 監査事務局 | 労働事務局 | その他事務局 | ||
平成6 | 2,988 | 282 | 15 | 7 | 201 | 263 | 71 | 424 | 62 | 142 | 32 | 8 | 127 | ||
平成7 | 611 | 86 | 16 | 3 | 108 | 33 | 93 | 222 | 7 | 12 | 6 | 1 | 24 | ||
平成8 | 607 | 92 | 23 | 7 | 148 | 42 | 74 | 107 | 4 | 85 | 6 | 19 | |||
平成9 | 615 | 92 | 23 | 3 | 163 | 71 | 108 | 93 | 3 | 34 | 6 | 19 | |||
平成10 | 1288 | 115 | 25 | 4 | 372 | 60 | 91 | 120 | 19 | 451 | 6 | 1 | 24 | ||
平成11 | 768 | 147 | 21 | 54 | 5 | 239 | 31 | 45 | 202 | 4 | 11 | 6 | 3 | ||
平成12 | 834 | 149 | 21 | 11 | 4 | 241 | 25 | 185 | 121 | 9 | 33 | 6 | 29 | ||
平成13 | 789 | 142 | 15 | 5 | 12 | 220 | 44 | 145 | 138 | 1 | 9 | 10 | 48 | ||
平成14 | 781 | 104 | 34 | 4 | 32 | 286 | 27 | 68 | 132 | 3 | 70 | 6 | 15 | ||
平成15 | 571 | 95 | 28 | 5 | 1 | 242 | 40 | 55 | 12 | 32 | 16 | 6 | 39 | ||
平成16 | 745 | 219 | 48 | 6 | 5 | 266 | 16 | 55 | 54 | 11 | 29 | 6 | 30 | ||
平成17 | 625 | 99 | 14 | 7 | 3 | 245 | 32 | 66 | 76 | 9 | 44 | 7 | 23 | ||
平成18 | 627 | 105 | 15 | 7 | 4 | 201 | 22 | 41 | 163 | 12 | 33 | 6 | 18 | ||
計 | 11,849 | 1,727 | 298 | 99 | 90 | 2,932 | 706 | 1,097 | 1,864 | 176 | 969 | 109 | 9 | 1 | 418 |
表4 平成18年度部局別・細目基準別選別数(簿冊文書)
部局別 | 選別細目基準(抜粋) | 計 | |||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
例規等 | 市町村配分合 | 事務引継ぎ | 議会審議会等 | 諮問答申 | 調査統計研究 | 予算決算 | 補助金貸付金 | 財産取得処分 | 許認可承認 | 監査検査 | 人事 | 叙勲表彰等 | 審査請求等 | 陳情請願 | 総合計画 | 建設等事業 | 史跡文化財等 | 外国人 | その他 | ||
総務部 | 3 | 1 | 58 | 19 | 9 | 2 | 10 | 3 | 105 | ||||||||||||
企画部 | 2 | 1 | 11 | 1 | 15 | ||||||||||||||||
安全防災局 | 7 | 7 | |||||||||||||||||||
県民部 | 3 | 1 | 4 | ||||||||||||||||||
環境農政部 | 4 | 46 | 2 | 89 | 51 | 1 | 8 | 201 | |||||||||||||
保健福祉部 | 4 | 1 | 7 | 10 | 22 | ||||||||||||||||
商工労働部 | 1 | 37 | 1 | 1 | 1 | 41 | |||||||||||||||
県土整備部 | 1 | 3 | 90 | 2 | 67 | 163 | |||||||||||||||
企業庁 | 1 | 2 | 1 | 8 | 12 | ||||||||||||||||
教育局 | 1 | 10 | 7 | 1 | 2 | 12 | 33 | ||||||||||||||
議会局 | 6 | 6 | |||||||||||||||||||
その他 | 6 | 9 | 1 | 2 | 18 | ||||||||||||||||
計 | 3 | 2 | 1 | 6 | 3 | 6 | 66 | 47 | 24 | 226 | 52 | 16 | 28 | 23 | 1 | 11 | 67 | 2 | 1 | 42 | 627 |
資料1 公文書等の収集・保存・選別・廃棄・閲覧の流れ
資料2 神奈川県立公文書館公文書等選別基準
神奈川県立公文書館条例(平成5年神奈川県条例第24号)第4条第1項の規定に基づき、神奈川県立公文書館(以下「公文書館」という。)が、県の機関から引渡しを受けた現用でなくなった公文書(県の機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、地図、図面類及びマイクロフィルムをいう。)その他の記録(以下「公文書等」という。)の中から歴史資料として重要な公文書等(以下「歴史的公文書等」という。)を選別するための基準を次のとおり定め、平成5年11月1日から施行する。
1方針
歴史的公文書等は、県民共有の財産として永く後世に伝えられ、神奈川の歴史形成に寄与するものであるので、その選別は偏りがなく、公正で客観的に行うこととする。
2選別される歴史的公文書等
公文書等のうち、歴史的公文書等として選別される公文書等は、次のいずれかに該当するものとする。
(1)県民生活の推移が歴史的に跡付けられる公文書等で、次に掲げるもの
ア その時代の世相、世論等が象徴的又は特徴的に表れている公文書等
イ 県民生活に影響が生じた犯罪、事故等の事件に関する公文書等
ウ 県民活動又は県民の動きを反映している公文書等
エ 県民生活における健康、安全、衛生、福祉等に関する公文書等
オ 災害及び災害対策活動に関する公文書等
カ 生活、自然等の環境について顕著な変化の内容を明示する公文書等
キ 公共性の高い事業に関する公文書等
ク 画期的又はユニークな活動、建造物等に関する公文書等
ケ 史跡、入会地、寺社、伝統的な行事が行われる場所その他由緒ある土地、建造物等に関する公文書等
コ その他県内で起き、又は県にかかわりのあった政治的、経済的又は社会的に重要な儀式、行事、事件等に関する公文書等
(2)県行政の推移が歴史的に跡付けられる公文書等で、次に揚げるもの
ア 顕著な行政効果をもたらした県事業の実施に関する公文書等
イ 県民の高い関心を呼んだ県事業の実施に関する公文書等
ウ 県の総合計画及び部局単位の事業計画の策定及び立案に関する公文書等(実施されなかったものにあっては、その計画について県民の高い関心を呼んだものに限る。)
エ 多額の事業費を要した県事業の実施に関する公文書等
オ 県行政の管理運営上重要な公文書等
(3)昭和20年以前に作成し、又は取得した公文書等
3細目基準の制定
公文書館の長は、2に定める歴史的公文書等の選別を適正に行うため、次に掲げる公文書等の区分により、細目基準を定めなければならない。
(1)条例、規則、訓令、通達等の例規に関する公文書等
(2)県の各種制度及び行政組織の新設及び改廃に関する公文書等
(3)市町村の廃置分合等に関する公文書等
(4)地方自治制度に関する公文書等
(5)選挙に関する公文書等
(6)事務引継書
(7)議会、各種委員会、審議会、主要会議等の審議経過及び結果に関する公文書等
(8)諮問及び答申に関する公文書等
(9)調査、統計及び研究に関する公文書等
(10)予算、決算及び収支等財政状況に関する公文書等
(11)起債、補助金及び貸付金に関する公文書等
(12)県有財産の取得、管理及び処分に関する公文書等
(13)許認可、免許、承認等に関する公文書等
(14)監査、検査等に関する公文書等
(15)主要職員及び各種委員の人事に関する公文書等
(16)叙位、叙勲、褒章、表彰等に関する公文書等
(17)争訟(訴訟、土地収用裁決、審査請求、異議申立て等をいう。)に関する公文書等
(18)行政代執行に関する公文書等
(19)陳情、請願、要望等に関する公文書等
(20)県の総合計画に関する公文書等
(21)公共施設の建築等のハード事業の実施に関する公文書等
(22)各種施策、行政運営上のシステム等のソフト事業の実施に関する公文書等
(23)県内の史跡、文化財等に関する公文書等
(24)外国及び外国人に関する公文書等
(25)儀式、行事その他事件に関する公文書等
(26)その他(1)から(25)までに属さない公文書等
4公文書館の長への委任
この基準の実施に関し必要な事項は、公文書館の長が定める。
資料3 保存文書引継票
資料4 簿冊文書選別記録例
No.001 | 室課名 総務部総務課 | 整理番号 20 | |
---|---|---|---|
対象文書 昭和50年度附属機関委員任免 | 冊数 1 | 厚さ3cm | |
内容 30年保存、総務部総務室作成文書 神奈川県固定資産評価審議会書記・委員・幹事、人事考査委員会委員・考査員、私立学校審議会委員・会長、財団法人神奈川県弘済会理事・役員、行政書士試験委員、勤務発明審査会委員・会長、県有財産評価委員等の任免神奈川県教職員健康審査会委員の委嘱の承諾、横浜市宅地価格研究協議会の専門員の推薦及び委嘱、 |
|||
選別結果:保存 | |||
(過去の選別結果)昭和43年度から49年度まで 理由 細目基準15 主要職員及び各種委員の人事に関する公文書等に該当 (2)各種委員(法令設置職、付属機関等委員)の任免に関する調書等は、収集する。 |
No.002 | 室課名 総務部総務課 | 整理番号 21 | |
---|---|---|---|
対象文書 昭和50年度規則以外の職の任免内申 | 冊数 1 | 厚さ1cm | |
内容 30年保存、総務部総務室作成文書 議会事務局書記任免の推薦 |
|||
選別結果:保存 | |||
(過去の選別結果)昭和43・45・49年度 理由 細目基準15 主要職員及び各種委員の人事に関する公文書等に該当 (2)各種委員(法令設置職、付属機関等委員)の任免に関する調書等は、収集する。 |
TEL:045-364-4461
FAX:045-364-4459