郡役所文書について

郡役所文書
関東大震災時の慰問品の領収書(橘樹郡役所文書 郡-2-8-31)

「郡役所文書」は、明治11年(1879)から大正15年(1926)まで県と町村の中間の機関として存在した「郡役所」が作成・収集した文書群です。

明治新政府は、地方制度として、県の下に「大区小区制度」と呼ばれる行政機構を設置しましたが実情にあわず、明治11年(1878)に「郡区町村編成法」を制定し、神奈川県には横浜区と14の郡役所が設置され、郡の下に町村が置かれました。その14郡のうち、いわゆる多摩3郡は明治26年(1893)に東京府に移管されたため、神奈川県の郡は、久良岐郡、橘樹郡、都筑郡、三浦郡、鎌倉郡、高座郡、中郡、足柄上郡、足柄下郡、愛甲郡、津久井郡の11郡となりました。

郡役所の主要な業務は、町村の監督や県と町村との調整を行うことであり、特に、開墾や埋め立てなど土地に関する許認可等の文書が多く残されています。また、葉山の御用邸に関する文書や関東大震災時の被害調査や配給に関する文書も、神奈川県の近現代史を語る上では欠かせない資料でしょう。

これらの文書は、関東大震災、第二次世界大戦等により、戦前の文書はほとんど焼失してしまった神奈川県にとって、戦前の県行政を知る上で貴重な資料です。

郡役所は、このように、その設置以降、とりわけ明治時代には一定の役割を果たしますが、大正時代になると、その存廃の議論が活発になります。第一次世界大戦後、行政整理が課題となるとともに、大正デモクラシーを背景に町村側から自治権の拡大の要望が高まったからです。その結果、大正10年(1921)に「郡制廃止ニ関スル法律」が成立し、神奈川県では大正15年(1926)に郡役所は廃止されました。

なお、「郡役所文書」は、国と県の雇用対策事業である「緊急雇用創出事業」を活用して電子データ化を行っており、当館の閲覧室に設置してあるパソコンでもご覧いただくことができます。

展示を終えて

神奈川県の旗本知行地-地頭と領民の江戸時代-

開催期間:平成23年1月26日~3月13日

今年度第2回企画展示では、神奈川県内に知行地を持つ旗本と、その知行地で暮らす領民との関わりを、公文書館に寄託・寄贈された資料から再現してみました。

今回展示に使用した資料から、2点を紹介します。1点は「武蔵野国都筑郡白根村の村絵図」で、この絵図が右側と左側が2つの別々の資料として整理されており、それぞれ異なった資料名がつけられていました。それが1枚の村絵図であることが展示の準備中に判明、リーフキャスティング(修復の一種で、漉き嵌め法)を施し、ばらばらだった10枚の紙をつなぎ合わせて、完成した姿を紹介することができました。

もう1点は、「旗本服部長門守常純直筆の書」です。彼は二丸留守居、講武所頭取等を歴任し、大政奉還の直前には若年寄にまで昇進しました(知行地は、久良岐郡松本村以外は常陸国)。この書は彼が長崎奉行に就任する直前のものです。伸びやかな墨蹟のなかに、そこはかとなく寂しさが漂っているようにも感じられる書です。

上白根村絵図
「武蔵野国都筑郡白根村の村絵図」上白根村(横浜市旭区)高橋家文書(寄託)

旗本服部長門守常純直筆の書
「旗本服部長門守常純直筆の書」松本村(横浜市港南区)金子家文書(寄託)

ミニ展示

昭和7年上海爆弾事件の記録

開催期間:平成22年11月13日~平成23年1月19日

平成22年度第4回のミニ展示は、当館が所蔵する『神奈川県特高関係史料』(214点)の中から、昭和7年上海爆弾事件に関連する記録を紹介しました。

昭和7年(1932)は前年の満州事変につづき上海事変、関東軍の満州国建国などがあり、それに対する抗日運動も激しさを増した年でした。この一連の動きの中で、尹奉吉(ユン・ボンギル)の爆弾事件が起こります。尹は、当時日本の植民地支配下にあった朝鮮の独立運動のために、中国の上海に亡命し、金九(キム・グ)が団長を務める独立運動団体「韓人愛国団」に加入しました。そして昭和7年4月29日、上海の共同租界内日本人地区で行われた天皇誕生日を祝う天長節の行事の場で、日本政府の高官らを爆弾で殺傷しました。

写真は、事件後に内務省が作成した「上海ニ於ケル尹奉吉爆弾事件顛末」です。この中には事件や尹奉吉についての詳細が記されています。写真は「其他尹ノ供述中参考トナルベキ事項」という部分で、彼は「今回のような事件を起こしても独立に直接効果がないことは満々承知しているが、ただ期待するのは、これによって朝鮮人の覚醒を促し、更に世界に朝鮮の存在を明瞭に知らしめることだ」と述べています。

上海に於けるユンボンギル爆弾事件顛末
「上海ニ於ケル尹奉吉爆弾事件顛末」より(ID:2600200010)

「開国百年祭」を調べるには

開催期間:平成23年1月22日~3月31日

この展示では、神奈川県内の過去の出来事を記録や資料で調べる方法についてご紹介しました。

インターネットに接続されているパソコンがあれば、あらかじめ目当ての資料があるかどうかを確認することができます。神奈川県立公文書館のホームページにアクセスして、トップページの「アーカイブズの検索」バーをクリックしてください。すると検索画面になりますので、調べたいことがらを入力のうえ検索してください。その際、ご覧になりたい資料がありましたら、資料名や資料ID(10桁の番号)を控えてご来館になるとよいでしょう。また当館閲覧室の検索機では検索した資料をもとに閲覧申込書を印刷することができます。書庫の資料の場合、閲覧申込書を受付にお出しください。

たとえば昭和29年(1954)に催された「開国百年祭」について検索すると、ちょうど同名の歴史的公文書(請求記号BH-6-6)があります。この資料を見ると、記念式典がいつどのように企画され、実際にどう運営されたかがよくわかります。案内状の見本から式次第や開催場所がわかります。来賓名簿から誰が招待され、誰が出席したかもわかります。職員向けの文書からは式典で誰がどのような仕事をしたかまでわかります。当時の新聞記事だけではわからない式典の模様が公文書に記されていました。

来賓あて招待状
来賓あて招待状(見本)「昭和29年度「開国百年祭(2)」 (請求記号:BH-6-6)

所蔵資料紹介

「松本喜美子資料」

松本喜美子資料については『館だより』第4号(平成10年2月)で紹介したことがありますが、その後追加の寄贈があり、全体は約5000点に及ぶ資料群となりました。このたび資料の整理が終了しましたので再度紹介いたします。

松本喜美子氏(明治41年~平成21年)は、昭和24年から37年まで神奈川県における初の女性指導主事として神奈川県教育委員会に勤務しました。昭和26年ガリオア資金により、米国研修旅行に参加、後に神奈川県中学校家庭科研究会の発足に関わりました。専門教科は家庭科で、戦後の家庭科教育に大きな功績を残した人物です。

資料群には指導主事時代の「学校訪問録」や家庭科教育に関する講習会、研究会の記録の他、文芸に関する書物が多く含まれています。これは氏が家庭科教育だけでなく文芸にも強い関心を持っていたことによります。

また、資料には戦前から戦後にかけて出版された礼法・作法に関する図書があります。例えば、昭和16年の『国民新礼法手帖』(朝日新聞社)には「国家に関する礼法」の項目があり、昭和27年の『新しい礼法』(日本弘道会)には「外国人に対する心得」という項目があります。これらにより、戦争を挟んだ礼法や作法の変遷だけでなく、社会の状況や常識が変化したことも読み取れるでしょう。他にも女性の立場や食文化、服装、住居の変化など、礼法からその時代時代の人々の生活を垣間見ることができます。

これらの資料はいつでも閲覧することができます。ぜひご来館ください。

礼法の本の写真
『国民新礼法手帖』(ID:2601001726)『新しい礼法』(ID:2601002923)

相模国三浦郡木古庭村 伊東家文書(寄託資料)

平成22年に寄託された新収資料群で、現在、整理の済んだものから順次公開しています。

伊東家文書は、『葉山町史料』(昭和33年発行)に1400点ほどの目録と一部の釈文が掲載されていますが、寄託文書は、およそ3000点を数えます。年代は天正9年(1581)から昭和年代に至ります。名主、戸長、初代葉山村・町長、県会議員、三浦郡長などを務めてきた伊東家および木古庭を中心とした三浦地域の350年以上に及ぶ記録遺産が、大いに活用され、地域研究の進むことを期待しています。

今回は、その中の小田原北条氏の文書3点の内の1点、天正9年2月の「北条氏規印判状」を紹介します。

この文書は、他の北条氏印判状2点が昭和55年に葉山町指定文化財になった時点では行方不明だったのですが、幸いにも本件寄託を仲介した横須賀市史編さん担当者が調査中に文書群の中に紛れていたのを発見したものです。

紹介文書の内容は、領主宮下が闕落し、木古庭村民も郷中明け(逃散)したとの由だが、何之郡郷・権門不入之地であろうと国法にまかせ早々に立ち戻り諸役に励むよう木古庭百姓中に命じたものです。差出人の北条氏規は、三代氏康の五男で、永禄10年以降、「真実」朱印状により三浦郡の支配者として現れます。逃亡した「領主宮下」は、「小田原衆所領役帳」に「山中寄子 宮下弥四郎」の記載があります。

なお、この人返し令書は、『新編相模国風土記稿』の木古庭村の項にも紹介されています。

北条氏規印判状
「北条氏規印判状」(ID:2201045001)

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神奈川県立公文書館 資料課
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