神奈川県立公文書館資料の閲覧制限の審査基準
令和2年2月22日館長決定
1.目的
この審査基準は、閲覧の申込みがあった公文書館資料に記録された情報が、神奈川県立公文書館条例施行規則(以下「施行規則」という。)第4条各号に規定する閲覧を制限することができる情報(以下「閲覧制限情報」という。)に該当するか否かを審査するに当たり、その判断の基準を定めるものである。
2.審査の基本方針
(1) この審査基準において、「公文書館資料」とは、神奈川県立公文書館条例(以下「条例」という。)第5条第1項に規定する公文書等のことをいう。
(2) 神奈川県立公文書館の長(以下「館長」という。)は、公文書館資料に記録された情報が、閲覧制限情報に該当するか否かを審査するに当たり、公文書館資料が県民共有の財産であることを踏まえ、閲覧に供することと個人に関する情報の保護等の必要性を比較衡量し、県民への説明責任を果たせるよう統一的視点に立って審査を行うものとする。
(3) 施行規則第5条第5項の趣旨や国際的な動向・慣行等を踏まえ、閲覧を制限することができる期間は、原則として、公文書館資料の作成又は取得後30年を超えないものとするが、館長は、閲覧時点における時の経過を考慮の上、なお閲覧を制限する必要があると認める場合にのみ、最小限の制限を行うこととする。
3.閲覧制限情報の判断の基準
(1) 施行規則第4条第1号に該当する個人に関する情報が記録されている公文書館資料についての判断の基準は、次のとおりとする。
ア 「個人に関する情報」とは、思想、信条、宗教、意識、趣味等に関する情報、心身の状況、体力、健康状態等に関する情報、資格、犯罪歴、学歴等に関する情報、職業、交際関係、生活記録等に関する情報、財産の状況、所得等に関する情報、個人の属性、人格、私生活に関する情報に限らず、個人の知的創作物に関する情報、組織体の構成員としての個人の活動に関する情報など、個人に関するすべての情報をいう。
また、「個人」には、生存する個人のほか死亡した個人も含まれる。
イ 「特定の個人が識別され、若しくは識別され得るもの」とは、特定の個人が当該情報から識別でき、又は識別できる可能性がある情報をいう。なお、本号に該当する情報は、当該情報に係る個人が誰であるかを識別させることとなる記述の部分だけでなく、当該記述により特定の個人に関するものであることが分かる個人に関する情報の全体である。
したがって、特定の個人が識別できる第一義的要素である氏名及び住所が記載されている場合には、氏名等の部分だけでなく、氏名等により識別される特定の個人に関する情報の全体が、「特定の個人が識別され、若しくは識別され得るもの」に該当する。
氏名等が記載されていない場合も、それ以外の部分の情報から、又はそれ以外の部分の情報と容易に取得し得る他の情報とを照合することにより、特定の個人が識別できるものであれば、「特定の個人が識別され、若しくは識別され得るもの」に該当する。
直筆の文書については、筆跡から特定の個人を識別するためには、筆跡鑑定を行う必要があることから、一般的には容易に取得し得る他の情報と照合することにより、特定の個人が識別できるものとはいえない。ただし、文書の内容から特定の個人が識別できる場合や、公開することにより文書を作成した個人の権利利益を害するおそれがある場合には、本号に該当する。
特定の集団に属する者に関する情報については、当該情報の性質や集団の性格等から、閲覧に供することにより、当該集団に属する個々人の権利利益を害するおそれがある場合があることに留意し判断する。
ウ 「特定の個人を識別することはできないが、閲覧に供することにより、個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とは、公文書館資料に記録されている情報から特定の個人を識別することはできないが、閲覧に供することにより、個人の権利利益を害するおそれがあるものをいう。
エ 「慣行として公にされ」とは、公にすることが慣習として行われていることを意味するが、慣習法としての法規範的な根拠を要するものではなく、事実上の慣習として公にされていれば足りる。
「公にされ」とは、当該情報が現に一般人が知り得る状態に置かれていれば良く、現に広く一般に知られている事実である必要はない。また、ある情報と同種の情報が公にされており、当該情報のみ公にしないとする合理的な理由がない場合等、当該情報の性質上、通例公にされる情報も含まれる。なお、過去に公にされたものであっても、相当期間の経過により、閲覧審査の時点では公にされているとは判断できない場合があることに留意する。
「公にすることが予定され」とは、将来的に公にすることを予定(具体的に公表が予定されている場合に限らず、求めがあれば何人にも提供することを予定している場合を含む。)している場合をいう。
オ 原則として、閲覧を制限することができる期間は、施行規則第5条第5項の趣旨を踏まえ、公文書館資料が作成又は取得されてから30年間とするが、かかる期間を超えてもなお当該情報を閲覧に供することに個人の権利利益を害するおそれがあると認められる場合には、一定の期間を経過するまでは閲覧制限情報とする。一定の期間の目安については、別表を参考とする。
(2) 施行規則第4条第2号に該当する法人その他の団体に関する情報が記録されている公文書館資料についての判断の基準は、次のとおりとする。
ア 「法人その他の団体」とは、会社法(平成17年法律第86号)上の営利法人、公益法人、社会福祉法人等の法人のほか、法令上の法人格を有しない団体を含むものである。「団体」とは、団体としての規約等を有し、かつ、代表者の定めのあるものをいう。
イ 「事業を営む個人」とは、地方税法(昭和25年法律第226号)第72条の2第8項から第10項までに掲げる事業を営む個人のほか、農業、林業、林産業(しいたけ栽培業等)等を営む個人をいう。また、「当該事業に関する情報」とは、事業そのもの(事業内容、事業所等)に関する情報のほか、事業用資産、事業所得等に関する情報を含むが、当該事業と直接関係のない個人に関する情報(家族状況等)については、前号で判断するものとする。
ウ 原則として、閲覧を制限することができる期間は、施行規則第5条第5項の趣旨を踏まえ、公文書館資料が作成又は取得されてから30年間とするが、かかる期間を超えてもなお当該法人等又は当該個人に不利益を与えると認められる場合には、一定の期間を経過するまでは閲覧制限情報とする。一定の期間の目安については、法人その他の団体又は事業を営む個人の当該事業に関する情報に関する情報は、社会的影響が大きく、公開することの公益性が高いこと、あるいは社会経済変動の影響を大きく受けやすく、時の経過によって情報保護の必要性が減少しやすいことなどを踏まえて、上記(1)オに定めるものより短い期間とする。
(3) 施行規則第4条第3号に該当する県の機関及び県が設立した地方独立行政法人の内部若しくは相互間又は県の機関等と国若しくは他の地方公共団体の機関、独立行政法人等若しくは地方独立行政法人(県が設立したものを除く。)との間における審議、検討又は協議に関する情報が記録されている公文書館資料についての判断の基準は次のとおりとする。
ア 「審議、検討又は協議に関する情報」には、行政内部における意見調整、打合せ、相談など、「審議、検討又は協議」という名称が用いられていないものも含まれる。また、行政内部における審議、検討又は協議に直接使用する目的で作成し、又は取得した情報や、審議等の前提として行われた調査研究において作成し、又は取得した情報のほか、これらの審議等に関連して作成し、又は取得した情報も含まれる。
イ 原則として、閲覧に供するが、当該情報が他の審議、検討等の前提や構成要素等である場合や閲覧に供すると将来予定されている同種の審議、検討等に不当な影響を与えるおそれがある場合、又は、県民の間に混乱を生じさせるような場合には、本号該当性を検討する。
(4) 施行規則第4条第4号に該当する県の機関、国等の機関、独立行政法人等又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報が記録されている公文書館資料についての判断の基準は次のとおりとする。
ア 「事務又は事業に関する情報」とは、当該事務又は事業の内容に直接係わる情報のみならず、当該事務又は事業の実施に影響を与える関連情報を含むものである。
なお、現に事務又は事業が終了している場合や、一定の結果が得られている場合には、当該事務又は事業の実施の目的を失わせ、又は当該事務又は事業の円滑な実施を著しく困難にするおそれはないと考えられる。ただし、閲覧に供することにより反復継続される同種の事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある場合には、本号該当性を検討する。
イ 「監査、検査、取締り又は試験」とは、指導監査、立入検査、漁業取締り、試験の実施等のほか、税務調査、各種の監視・巡視等の事務が含まれる。
ウ 「契約、交渉又は争訟」とは、県、国等、独立行政法人等又は地方独立行政法人が当事者となるものに限定される。「交渉」とは、相手方との話合いによる取決めを行うことをいい、その種類としては、補償、賠償に係る交渉、土地等の売買に係る交渉、労務交渉などがある。「争訟」とは、訴訟及び行政不服審査法(平成26年法律第68号)その他の個別法に基づく不服申立て等をいう。
エ 「調査研究」とは、試験研究機関等において行われる調査、研究、試験等をいう。
オ 「人事管理」とは、職員等の採用、退職、異動等をいう。
カ 原則として、閲覧に供するが、閲覧に供すると特定の者に利益を与える場合や県民全体の利益を確保しようとする行政の目的を損なう場合、または、反復継続される同種の事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある場合には、本号該当性を検討する。
(5) 施行規則第4条第6号に該当する犯罪の予防、犯罪の捜査、個人の生命、身体及び財産の保護その他公共の安全の確保のため、閲覧に供しないことが必要と認められる情報が記録されている公文書館資料についての判断の基準は次のとおりとする。
ア 「犯罪の予防」とは、犯罪行為をあらかじめ防止することをいう。「犯罪」とは、法令等により刑罰を科することとされた行為の総称であり、刑事犯(自然犯)だけでなく、行政犯(法定犯)において刑罰を科することとされた行為を含む。「予防」とは、犯罪に巻き込まれるおそれのある者を保護すること等により、犯罪の発生を未然に防止することのほか、少年を補導し、その不良化を防ぎ、もって犯罪の発生を防止する等の活動をいう。
したがって、犯罪を誘発するおそれのある情報は、犯罪の予防の見地から、本号により閲覧を制限することができる。
なお、県民の防犯意識の啓発、防犯資機材の普及等、一般に公にしても犯罪を誘発し、又は犯罪の実行を容易にするおそれがない防犯活動に関する情報については、本号に該当しない。
イ 「捜査」とは、捜査機関が、犯罪があると思料するときに、犯人を発見し、身柄を保全することや、証拠を収集し、保全する活動をいい、犯罪捜査と密接不可分な関係にある内偵活動を含む。
ウ 「その他公共の安全の確保」とは、犯罪の予防、鎮圧等のほかに、これらには該当しないが社会生活に必要な法規範等のルールが害されないよう保護し、それに対する障害を除去することをいう。
また、公にすることにより、テロ等の人の生命、身体、財産等への不法な侵害や、特定の建造物又はシステムへの不法な侵入・破壊を招くおそれがあるなど、犯罪を誘発し、又は犯罪の実行を容易にするおそれがある情報や被疑者・被告人の留置・勾留に関する施設保安に支障を及ぼすおそれのある情報も本号に含まれる。
(6) 施行規則第4条第7号に該当する法令等の規定又は地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の9第1項の規定による基準その他県の機関等が法律上従う義務を有する国の機関の指示により、閲覧に供することができない情報が記録されている公文書館資料についての判断の基準は次のとおりとする。
ア 「法令等」とは、法令又は条例をいい、「法令」とは、法律、政令、省令その他国の機関が定めた命令が含まれる。
イ 「地方自治法第245条の9第1項の規定による基準」とは、地方自治法第245条の9第1項の規定により都道府県が法定受託事務を処理するに当たり、よるべき基準として各大臣が定めたものをいう。
ウ 「その他県の機関等が法律上従う義務を有する国の機関の指示」とは、普通地方公共団体の事務の処理に関し国が行う指示であって、県の機関及び県が設立した地方独立行政法人が法律上従う義務を有するものをいう。
(7) 施行規則第4条第8号に該当する自己に関する情報のうち、個人の指導、診断、評価、選考等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるものが記録されている公文書館資料についての判断の基準は次のとおりとする。
ア 「指導、診断、評価、選考等」とは、具体的に列挙した指導、診断、評価、選考等そのものに係る情報に限定されるのではなく、これらに類する情報や当該指導、診断、評価、選考等に影響を及ぼすと認められる事実等の情報についても含む。
イ 「著しい支障が生ずるおそれ」がある情報とは、特定の個人(自己)を保護する必要がある場合、第三者の利益を害する場合、公共の利益等から閲覧に供することに問題がある場合等をいう。
(8) 施行規則第4条第9号に該当する公文書館が県民等から取得した公文書館資料に記録されている情報であって、閲覧に供しない旨の条件が付されているものの判断の基準は次のとおりとする。
ア 「公文書館が県民等から取得した公文書館資料」とは、条例第3条の規定により県の機関から公文書館に引き渡された公文書等を除く、旧神奈川県立文化資料館から引き継いだ公文書等(県の機関が作成し、又は取得した公文書等を除く。)及び県の機関以外のものから購入、寄贈又は寄託により取得した古文書等の資料をいう。
イ 「閲覧に供しない旨の条件が付されているもの」とは、公文書館が県民等から取得した公文書館資料には、地域に密着した様々な情報が記録されていることから、所蔵家だけではなく、特定の地域住民個人を識別することができる情報や、人に知られたくない情報等が記録されている場合があるため、寄贈又は寄託に当たって条件が付されている資料をいう。
ウ 寄贈者又は寄託者の意向を尊重することから、閲覧に供することはできない。
(9) 館長は、閲覧に供することができるか否かの判断に当たり、公文書館資料に神奈川県の機関以外で作成された公文書又は神奈川県の機関以外から提供された情報が記録されている場合、当該文書等を作成した機関又は保存している文書館等に対して、意見を求めることができる。
4.自己に関する情報の取扱い
個人に関する情報は閲覧制限情報に該当する(施行規則第4条第1号)が、当該情報から識別され、若しくは識別し得る特定の個人(自己)が、当該情報が記載されている公文書館資料の閲覧を申込む場合については、例外として、本人であることを確認の上、閲覧に供することとする。ただし、当該個人以外の第三者に関する情報をも含む場合は、同号の規定により、閲覧を制限することができるか否かを検討する。
5.審査基準の見直し
この審査基準は、施行後5年ごとに見直しを行うものとする。
別表
公文書館資料に記録されている情報 | 一定の期間(目安) | 制限情報の例 |
---|---|---|
個人に関する情報であって、一定の期間は、当該情報を公にすることにより、当該個人の権利利益を害するおそれがあると認められるもの | 50年 |
〇個人の出生に関する情報 本籍地 国籍、人種又は民族 〇思想・信条・信仰等に関する情報 檀家、氏子、信徒 手紙、作文 〇心身の状況に関する情報 疾病 自殺 身体障害 〇非行に関する情報 犯罪 懲戒処分 〇評価に関する情報 採用、成績、勤務評定 〇経済状況に関する情報 財産、滞納 |
重要な個人に関する情報であって、一定の期間は、当該情報を公にすることにより、 当該個人の権利利益を害するおそれがあると認められるもの | 80年 |
〇個人の出生に関する情報 特別な状況(私生児、庶子、養子縁組等) 〇非行に関する情報 重大な犯罪歴(殺人等) 〇経済状況に関する情報 悲惨な生活状況(貧困、生活保護、売春等) 印鑑登録 |
重要な個人に関する情報であって、一定の期間は、当該情報を公にすることにより、当該個人又はその遺族の権利利益を害するおそれがあると認められるもの | 110年を超える適切な年 |
〇心身の状況に関する情報 精神障害(旧優生保護法事案含む) 遺伝性疾患 ハンセン病 〇非行に関する情報 特に重大な犯罪歴 〇被差別部落に関する情報 |
(備考)
1 「一定の期間(目安)」とは、個人の権利利益を害するおそれがあるかについて審査を行う際の期間の目安として示したのものであって、神奈川県立公文書館条例施行規則及び審査基準を踏まえた上で、慎重に判断するものとする。
2 本期間の起算日は、当該情報が記録されている資料が作成又は取得された日とする。
3 「制限情報の例」とは、この表の左欄にいう「個人に関する情報」又は「重要な個人に関する情報」にそれぞれ該当する可能性のある一般的な情報の類型を例示したものであって、公文書館資料の閲覧の可否を決定する際には、当該資料の具体的性質や記録された当時の状況等を総合的に勘案して、個別に判断するものとする。
4 公文書館資料の中で、「制限情報の例」が複数の区分に該当する場合には、最も長い期間を目安として判断する。
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神奈川県立公文書館 資料課
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